アメリカでは医療へのAI の導入が急ピッチで進んでいる。AI が最も得意とする画像認識の領域では、医師の代わりに病理診断(顕微鏡での組織の診断)や画像診断(CT画像など)を AI が行うことが常識化している(病理診断や画像診断は最低2名の医師が独自に判断して、その診断の精度を高めているが、このうちの1名の医師の代わりを AI が行えるようになっている)
AI は「学習を重ねて能力が向上する機器」であるので、その「学習」が、能力向上には鍵になる。もともと AI の有利性は、自らネット上の情報を収集して、それを消化して答えを出す、とう能力であったが、ネット上が誤情報・嘘で満ちているので、ネット上の情報を自律的に探しに行かせるべきか?それとも人間が「教科書」をAI に与えるべきかが大きな問題になっていた。
結局、学習内容の中に誤情報や嘘(data-poisoning attacks)が0.001%混じっただけで AI は判断ミスをしてしまうことが分かって、「AI の教科書」は人間が正しい情報だけを選んで作らないいけない、というのが2025年4月現在の状況である。
Alber DA et al. Medical large language models are vulnerable to data-poisoning attacks. Nat Med. 2025 Feb;31(2):618-626.
(2025年現在、有名なオープンAI社の ChatGPT も(情報公開されていないので真偽は不明だが)インターネットからの情報収集は止めて、自社でのデータベースに基づく「回答」の作成をするプログラムに替えた様子で、出力される医療情報は、以前よりも格段に正確になっている、と感じる)
人間が選んだ正しい医療情報で 生成AI を教育し、アメリカの医師国家試験を受けさせ、何点獲得するかを各AI (BioLinkBert, DRAGON, PubMedGPT, PubMedBERT, BioGPT など) に競い合わせるのが2024年までの医療における生成AI の研究の主流だった(日本からは、フェイス・ブックで有名なメタ社が公開した Llama3 を教育して医療系に特化させた Llama3-Preferred-MedSwallow-70B などがある)が、それも終了し、
Singhal K et al. Toward expert-level medical question answering with large language models. Nat Med. 2025 Mar;31(3):943-950.
Bedi S et al. Testing and Evaluation of Health Care Applications of Large Language Models: A Systematic Review. JAMA 2025 Jan 28;333(4):319-328.
現在では、国家試験の臨床問題のような単純化された仮想の症例では無く、実際の医療現場で遭遇する複雑な臨床症例の診療に際して 生成AI が医師のアシスタントとして診断までの過程を迅速化できるかどうかの検証が行われている。
Goh E et al. Large Language Model Influence on Diagnostic Reasoning: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2024 Oct 1;7(10):e2440969.
Liu X et al. A generalist medical language model for disease diagnosis assistance. Nat Med. 2025 Mar;31(3):932-942.
Goh E et al. GPT-4 assistance for improvement of physician performance on patient care tasks: a randomized controlled trial. Nat Med. 2025 Feb 5.
今後は、生成 AI の能力は更に進化するだろう。次に検証が求められるのが、生成AI 単独で医師と同じ質の診療が可能かどうかであろう。
世界では、多くの生成 AI のプログラムが無料で使える(Open-source) ように公開されている。多くの研究者が、無料公開の生成 AI を教育(fine-tuning)し、 医療の現場で使えるもの・医療者と同等の能力を持ったものを樹立しようとしている(Hugging Face Hub などで公開)。
一方、日本では患者との対話を「文字起こし」したり、会話内容を「要約」するなど、本来の生成AIの最も大きな武器である「知的な部分」を利用しない方向で商品開発が進んでいる様にも感じる。