血液の癌である白血病やリンパ腫は全身の病気なので抗癌剤のみで治療し、治癒する場合が多い。
しかし、長い間、血液以外の癌・固形癌は、抗癌剤での治癒は不可能で、手術や放射線治療が根治のための治療法であった。しかし、今回、手術も放射線治療も行わずに、免疫チェックポイント阻害剤だけで進行した大腸癌を含めて多くの癌が高い確率で根治したとの報告がなされた。
今までの医学の常識を根底から覆す、衝撃的な発表である。
Cercek A et al. Nonoperative Management of Mismatch Repair–Deficient Tumors. N Engl J Med 2025;392:2297-2308.
癌の中には、人間の5種のDNA修復機構のうちの一であるミスマッチ修復機構(MMR: Mismatch Repair) が欠損(deficient)することにより(dMMR: deficinet of MMR)、多くの遺伝子異常を獲得して癌化するものがある。直腸癌(肛門の直上に発症する大腸癌の一種)の10-15%の症例では dMMR が見られる。大腸癌以外のも尿路上皮癌や食道癌、前立腺癌など、さまざまな癌の一部にdMMRが見られる。
dMMR は腫瘍組織のDNAを用いたマイクロサテライト不安定性検査 (MSI: microsattelite instability) と組織検査によりMMRを司る蛋白群 MLH1, MSH2, MSH6, PMS2 の癌細胞内での発現を免疫染色で確認し、その欠損から診断される。
進行期であるステージIII までのdMMR腫瘍を、免疫チェックポイント阻害剤であるdostarlimab (2025年5月時点では日本未発売)のみで治療し、その効果を検証した。
多くの患者が、この治療だけで、完全に腫瘍が消え、腫瘍が消えた患者の多くが、追加の治療(手術・放射線・抗癌剤治療)を受けずに経過観察したが、2年の時点で92%が再発を認めていないとの事である。特に、直腸癌・大腸癌・尿路上皮癌では高い奏効を示したとの事である。
固形癌においては、必ず dMMR 型の癌であるかどうかを検証し、もしdMMR であれば免疫チェックポイント阻害剤のみの治療で高い確率で治癒することが期待できる。
腫瘍細胞の遺伝子検査・免疫染色検査は、固形癌治療にとって極めて重要な検査となる。