世の中には、現在の医学レベルの治療法で「完全に治せる病気」と「完全には治せない病気」がある。
勿論、現在の医学レベルでは、まったく歯が立たない難病もあるが、症状を抑えるだけなら、現在の医学レベルの治療法でも可能だが、完全に病気を消し去ることが出来ない病気が多数ある。
B型肝炎ウイルスは、現在の抗ウイルス薬では、体内のウイルス量を極限まで少なくすることは出来るが(肝炎を起こさなレベルまで下げること出来るが)、完全に体から駆逐することは出来ない。「完全には治せない病気」の一つである。
一方、C型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス薬は、たちどころにウイルスを体から駆逐することが出来る。(治療後も担当医の指示に従い定期的な通院が必要な場合も多いが)「完全に治せる病気」である。
血液の癌の一種である慢性骨髄性白血病(CML)は特効薬が出来たので多くの患者が白血病細胞を極限まで少なく出来るが、白血病(CML)細胞を体から完全に駆逐できない。薬を止めると白血病(CML)細胞が増えてくる。「完全には治せない病気」である。そのため患者は、一生涯、治療薬を飲み続ける必要がある。薬を飲み続ければ、何の問題も無く、普通の生活が送れる。
この慢性骨髄性白血病、一部の患者では、薬を止めても白血病(CML)細胞が増えてこない。(この場合も担当医の指示に従い定期的な通院・検査が必要である)白血病(CML)細胞を完全に駆逐できたのかもしれないし、体の免疫力が白血病(CML)細胞の増殖を抑えているのかもしれない。ごく一部の患者でのみ、このような現象(治療薬を止めても白血病(CML)細胞が増えてこない)が起きるが、そのメカニズムは不明である。
同様に、「完全には治せない」血液の癌の代表格が濾胞性リンパ腫(FL) と多発性骨髄腫である。 リンパ腫には様々な種類があるが、頻度の一番高いび漫性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)は「完全に治せる」血液癌の代表格なのに、それに良く似たFL は、極めて進行がゆっくりで、治ったと思っても、何年も後に再発したりする。現在の通常の抗癌剤治療では完全に治すのが不可能・極めて困難な病気と考えられている。
同様に多発性骨髄腫も、現在の抗がん剤治療で骨髄腫細胞が体から消えても、5年後・10年後に再発する。こちらも、ゆっくりと進行し、根治が出来ない・極めて困難な血液の癌と考えらている。
これらの疾患で、何故、腫瘍細胞を体から完全に駆逐できないのかは謎である。進行がゆっくりな癌なので、現在の抗がん剤に抵抗力を持った細胞が少数存在する可能性が考えられている。
今回、CAR-T 細胞療法(Ciltacabtagene Autoleucel)で治療された(再発・難治)多発性骨髄腫の患者の一部が「完全に治った」のではないか(potentially
curative)と報告された。
勿論、10年後・15年後・20年後を待たなければ最終的な結論は得られないが、免疫の力を使った治療法・CAR-T細胞療法が、これらの「ゆっくり進行する血液の癌」の腫瘍細胞を、体から完全に駆逐する鍵なのかもしれない。
Jagannath S et al. Long-Term (5-Year) Remission and Survival After Treatment With Ciltacabtagene Autoleucel in CARTITUDE-1 Patients With Relapsed/Refractory Multiple Myeloma. J Clin Oncol. 2025 Jun 3