生体内遺伝子編集による治療


鎌状赤血球症やベータ地中海貧血はベータ・グロビン遺伝子に異常を持って生まれて来る子供に発症する病気である。鎌状赤血球症は日本人には無い病気であり、地中海貧血も、日本では極めて稀な病気なので、これらの病気に詳しい医師・研究者は日本には極めて少ない。

ところが、アフリカ系住民の多いアメリカでは、鎌状赤血球症は極めて多い病気だし、地中海貧血の患者も多い。そのため熱心に研究されているし、次々と治療法が開発されている(日本には、その治療は入ってこない)。

血を作る大元の骨髄の細胞の異常であるから、骨髄を健康な人の骨髄と入れ替える骨髄移植は良い治療になるが、兄弟や他人からの骨髄移植では多くの副作用があるので、必ずしも簡単に行える治療ではない。

骨髄細胞に正常なベータ・グロビンを作れるように、正常ベータ・グロビン遺伝子を埋め込む遺伝子治療は、一つの良い方法であり、これなら、自分の細胞を体外で遺伝子操作して、その後に体に戻すので、副作用も少ない。こちらは良い治療法である。(正確には HbS の合成を防ぐ作用を人工的に持たせた、正常とは少し違った形のベータ・グロビンを導入している)

更に、近年は、眠っているガンマ・グロビンを呼び覚ますために、遺伝子操作(遺伝子編集)する方法が試みられて良い効果を上げている。CRISPR/Cas9 法を用いて遺伝子編集を加え、ガンマ・グロビンを目覚めさせ、その骨髄細胞を患者の体に戻すことで、大量の Hb F が合成され、貧血が改善する。

勿論、これらの治療は欧米で開発され、欧米でのみ行われている。患者の少ない日本では研究も行われないし、治療が試みられることも無い。

Kanter J et al. Biologic and Clinical Efficacy of LentiGlobin for Sickle Cell Disease. N Engl J Med. 2022 Feb 17;386(7):617-628.(遺伝子治療)

Locatelli F et al. Betibeglogene Autotemcel Gene Therapy for Non-β0/β0 Genotype β-Thalassemia. N Engl J Med. 2022 Feb 3;386(5):415-427.(遺伝子治療)

Frangoul H et al. Exagamglogene Autotemcel for Severe Sickle Cell Disease. N Engl J Med. 2024 May 9;390(18):1649-1662. (生体遺伝子編集)

Locatelli F et al. Exagamglogene Autotemcel for Transfusion-Dependent β-Thalassemia. N Engl J Med. 2024 May 9;390(18):1663-1676. (生体遺伝子編集)

2024年05月10日