昔の病気・ピックウィック症候群


医学の進歩により、その病気の正体が解明され、最初に名付けられた病名が消えてしまうことがある。そんな消えてしまった昔の病気の一つにピックウィック症候群がある。

この疾患は、アメリカの小説家デッケンズが書いた、引退した老紳士ピックウィックの痛快物語「ピックウィック・クラブ」に登場するジョーに、患者の風貌が似ていることから、この症候群の発見者であるバーウェルが名付けたとされる。

この疾患の患者は、ジョーのように、肥満があり、赤ら顔で、いつも眠そうにしている、という特徴がある。

現在では、この疾患は睡眠時無呼吸症の一つとされており、ピックウィック症候群という病名が使われることは無くなっている。

「極度の肥満」になると、睡眠時に喉の重みで気道が閉塞し、無呼吸となる。このため患者は苦しくなって何度も目を覚まし、十分な睡眠が取れない。そのため「日中でも常時、強い眠気に襲われ」ている。

また、無呼吸状態が続くため酸素不足となり、その酸素不足を補うために、体が赤血球を大量に作る(二次性)多血症となる。このため「赤ら顔」になる。また高血圧にも繋がり、心不全にまで至ることがある。

高度肥満・睡眠時無呼吸症・日中の眠気・二次性多血症・高血圧・心不全などが合併したものがピックウィック症候群である。

現在では、CPAP という器具を装着して睡眠を取ることにより、睡眠不足や酸素不足が解消される。また、肥満に対しては GLP1受容体作動薬の投与により改善させることが出来る。

現代であれば、ピックウィック・クラブのジョーも、すっかり顔色・風貌が変わってしまう事だろう。 

 

 

2025年06月25日