学会報告2023ASH「転写因子を...」


疾患を治療する薬剤は、生体の細胞内の様々な蛋白を標的としています。薬剤が生体内の蛋白と結合することで、その効果を発揮しています。細胞内の遺伝子の発現を制御している転写因子と呼ばれる蛋白は重要な役割を果たしていますが、転写因子を標的とした治療薬の開発は、極めて困難だと言われて来ました。

しかし、サリドマイドという薬剤が IKZF という転写因子を阻害することが分かって以来、サリドマイドの性質を真似て、転写因子を阻害する薬剤を開発することが進められています。セレブロン蛋白結合型物質 (CRBN-biased ligands) が、その候補になっています。

2023年12月の ASH のプレナリーセッションの第2席で製薬メーカー・ノバルティス社より CRBN-biased ligands ライブラリーを用いた研究の成果を発表していました。

赤血球のヘモグロビンは、成人ではアルファ―型とベータ―型グロビンで構成されていますが、胎児期にはアルファ―型とガンマ―型です。出生後はガンマ―型の発現が完全に遮断されます。このガンマ―グロビンの発現の遮断のメカニズムは詳しく研究されて来ました。

発表によると、このガンマ―グロビンの発現を再開させる物質を探すために、上記のライブラリーを用いて薬剤を探索したそうです。その結果、ガンマ―グロビンの発現を復活させる物質を発見したそうです。さらに、その物質が結合する蛋白WIZを発見したそうです。

この WIZは今まで、まったく注目されてこなかった蛋白で、その機能は不明ですが、その構造から転写因子と推定されるそうです。また、このWIZがガンマーグロビンの発現の遮断において重要な役割を担っていることを突き止めたそうです。

CRBN-biased ligands ライブラリーを使って、今まで治療困難だった疾患に対して、その疾患の原因となっている転写因子を標的とした、有効な治療薬が次々と発見されることが期待されます。 

 

2023年12月22日