病気の正式名称は、しばしば変更される。つい昨日まで一般的に広く使われていた名前が突然変わることがある。
アルコールを飲まない人(あるいは極少量しか飲まない人)が肝炎を起こした場合、Non-Alocholic Steatohepatitis 非アルコール性脂肪性肝炎の頭文字を取ってNASH (ナッシュ)と呼ばれていたが、最近、Metabolic Dysfunction-Associated Steatohepatitis の頭文字を取って MASH (マッシュ)と呼ばれるようになった。
同様に Non-alcholic fatty liver disease:NAFLD は Metabolic dysfunction associated fatty liver disease:MAFLDに変わった。
(いずれも、少し、診断基準が変っている)
日本の肝臓病の多く(7割以上)がB型あるいはC型肝炎ウイルスが原因であったが、B型肝炎のワクチンが開発され、現在では乳児期に3回接種して免疫を付けさせるようにしており、また、有効な抗ウイルス薬が開発されたので、感染者の数が激減している。C型肝炎ウイルスにはワクチンは無いが、極めて有効は抗ウイルス薬が開発されたので、こちらも、どんどん患者数が減っている。
そこで問題になっているのが MASH である。MASH は肥満や高脂血症・糖尿病などに合併するので、生活習慣の改善や、これらの基礎疾患を、しっかり治療することも、改善には重要だが、今まで MASH に対する有効な治療法は無かった。
今回、糖尿病治療薬として、また肥満改善薬として使われているGLP-1受容体作動性薬 Semaglutide (セマグルチド・商品名 リベルサス)がMASH を劇的に改善することが報告された。(それ以外の薬剤の有効性も次々と報告されている)
Sanyal AJ et al. ; ESSENCE Study Group. Phase 3 Trial of Semaglutide in Metabolic Dysfunction-Associated Steatohepatitis. N Engl J Med. 2025 Jun 5;392(21):2089-2099.
Noureddin M et al. Efruxifermin in Compensated Liver Cirrhosis Caused by MASH. N Engl J Med. 2025 May 9.
Loomba R et al. ; SYNERGY-NASH Investigators. Tirzepatide for Metabolic Dysfunction-Associated Steatohepatitis with Liver Fibrosis. N Engl J Med. 2024 Jul 25;391(4):299-310.
Sanyal AJ et al. ; 1404-0043 Trial Investigators. A Phase 2 Randomized Trial of Survodutide in MASH and Fibrosis. N Engl J Med. 2024 Jul 25;391(4):311-319.
Harrison SA et al. ; MAESTRO-NASH Investigators. A Phase 3, Randomized, Controlled Trial of Resmetirom in NASH with Liver Fibrosis. N Engl J Med. 2024 Feb 8;390(6):497-509.
やがて、MASHの患者数も劇的に減り、日本の肝炎患者数は劇的に減るだろう。これに伴い、肝炎が進行して発症する肝硬変・肝癌の患者数も減り、肝硬変が原因で起こる食道静脈瘤・肝性脳症の患者数も劇的に減っていくことだろう。