お知らせ一覧

【学会参加報告】2024年 アメリカ癌研究学会(AACR)


アメリカ癌研究学会 (AACR: American Association of Cancer Research) 総会 が2024年4月5日から10日までカリフォルニア州サン・ディエゴ市で開催されました。 米国だけでなく世界中の癌研究に関わる医療者・研究者が集まる世界最大級の国際学会でした。当日は医学や生物学だけでなく人工知能(AI)研究の科学者も多数参加し(Computer Biologyという新しい分野)癌研究が新し扉を開いたことを実感できました。

 10年前に癌細胞の全ゲノム解析が一般診療の中に取り入れら、その膨大なデータ(ビッグ・データ)の解析に長い間苦労してきた癌研究者はAIの登場により、その有効利用が可能になり、研究は急激に進んでいました。ゲノム・データ・遺伝子発現データ・患者の治療への感受性データ・予後データなどを全て組み込み、瞬時に、各患者に最適な治療薬の組み合わせを解析すことが可能になってきました。癌の治療成績は、更に飛躍的に伸びることが期待できそうだと思われました。


 世界の IT 研究・技術を牽引するアメリカと韓国からの 企業と大学の共同研究が多数発表されていました。勿論、研究大国の中国からの発表も多数ありました。それに比べて、シンガポールと日本に、一時の活気が無いのが残念でした。

 栄誉ある学会賞であるOutstanding Achievement in Blood Cancer Research 賞(血液癌研究において顕著な業績を残した方に贈られる賞)がカリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) の Owen N. Witte 教授に贈られました。

 Witte (ウィッテ) 先生はマサチューセッツ工科大学のボルチモア教授(現・カリフォルニア工科大・教授、1975年ノーベル賞受賞)の下で、世界で初めてチロシン・リン酸化酵素 Ableson (エーブルソン)を発見した方です。

 当時は、セリン・スレオニン残基のリン酸化酵素が癌化に重要な役割を果たしているとされていた中で、SRC(サーㇰ)リン酸化酵素と同様にチロシン残基のリン酸化の重要性を報告しました。

 その後、慢性骨髄性白血病の細胞株では、分子量の大きな異常なエーブルソンが発現していることを発見し、これが慢性骨髄性白血病の原因蛋白である BCR-ABL 異常チロシン・リン酸化酵素であることを発見しました。この発見は、その後の慢性骨髄性白血病の治療薬イマチニブの開発の基礎となりました。

 更に、X染色体由来の無ガンマグロブリン血症(ブルトン型無ガンマグロブリン血症)という先天的な免疫不全の原因が、BTK チロシン・リン酸化酵素の異常であることを発見しました。このBTK は慢性リンパ性白血病の治療標的として非常に重要な蛋白であることが分かり、その後開発されたBTK阻害剤は、今では白血病治療には欠かせない薬剤になっています。

 コロナ禍が収まり、中国からの参加者も多数ありました。そんな中、川又教授と共にUCLA で癌研究に取り組まれていた中山大学(英語表記 Sun Yat-sen 大学/ 中国民主化の父・孫文氏の名前に由来する大学名。台湾の National Sun Yat-sen 大学とは関係が無い)のイン教授も参加されていました。

 

Bioinformatics や Computer Biology など人工知能(AI) の発表も多数。

学会賞を受賞されたウィッテ教授。中山大(Sun Yat-sen大)イン教授と川又教授。

2024年04月22日

2024 医療保健学部 入学式


2024年4月4日に東京工科大学・蒲田キャンパス・日本工学院アリーナ(旧 片柳アリーナ)にて医療保健学部の新入生の入学式が取り行われました。

医療保健学部の看護学科・臨床工学科・リハビリテーション科(理学療法学・作業療法学・言語聴覚学)・臨床検査学科の総勢400名が新入生として入学いたしました。

当日は片柳学園・理事長の千葉茂先生や主賓の東京大学・副学長の岡部徹先生など多くの素晴らしい先生方からお祝いの御言葉を頂きました。

400名が4年後に優れた医療者として巣立って行ってくれることを期待しております。

 

 

2024年04月17日

2023年度 医療系 国家試験 合格率 


2023年度 医療系国家試験の合格発表がありました。

当・東京工科大学・医療保健学部において、
看護師・保健師(看護学科)
臨床工学技士(臨床工学科)
理学療法士(理学療法学科)
作業療法士(作業療法学科)
臨床検査技師(臨床検査学科)
で、いずれも高い合格率で、卒業生の皆さんが多数、合格されました。
4月から、新しい職場での活躍を期待しております。

 

 

2024年04月01日

韓国の医師のストライキ


2024年2月に、韓国政府が発表した医学部の定員数の大幅な増員(入学者数を3,000人から5,000人に増員)を進める法案に抗議して、若い医師を中心にストライキが行われている。多くの研修医が辞表を提出して職場を放棄して、韓国の医療現場は混乱に陥っている。

日本と韓国では医療資源(Health System Resources) の各項目で似たところが多数ある。

日本も韓国も国民 1,000人当たりの医師数は 2.6 とアメリカ(2.7)・カナダ(2.8) と同程度であるが、イギリス(3.2)、フランス(3.4)、イタリア(4.3)、ドイツ(4.5) などヨーロッパの先進国に比べると少ない。(2023年のデータ)高齢化が急激に進んでいる韓国では、医師の増員が望ましいと考え、韓国政府は医学部定員数の大幅な増加を決定しようとしている。

日本も韓国も病床ベッド数が非常に多い国である。韓国は人口 1,000人当たりのベッド数が12.8床と、日本の12.6床と並んで、他国を引き離して極めて多い。第3位のロシアのベッド数が 8.0であり、先進7カ国G7のドイツ(7.8)とフランス(5.7)と比較しても日韓のベッド数は多い。他のG7の国であるイタリア(3.1)、アメリカ(2.8)、カナダ(2.6)、イギリス(2.5)のベッド数は更に少ない。日本と韓国のベッド数の多さが際立っている。(2023年のデータ)

ただ、韓国は病床ベッド数は多いが、患者の入院期間は7.6日と他の先進国と同様である。その点、日本は16日とOECD加盟国中最長であり、2位のポルトガル9.2日を大きく引き離して際立って長い。(2023年のデータ)

日本も韓国も女性医師の比率が、22%・24%であり、他国に比べて際立って低い。日本はOECD加盟国中最下位であり、韓国は最下位から2番目である。最下位から3番目のルクセンブルグは36%を示していた。他のG7先進国はアメリカ(37%)、イタリア(44%)、カナダ(44%)、フランス(46%)、ドイツ(48%)、イギリス(49%)と女性医師の比率が高い。(いずれも2019年のデータ)

医療支出はGDP比で日本が世界4位の11.5%であり、韓国は18位の 9.7%であるが、韓国における医療費の自己負担率は 29.1% と他国に比べて極めて高い(日本12%、アメリカ11%、カナダ14%、イギリス14%、フランス8.9%、ドイツ12%、イタリア22%)。

医療者によるストライキは日本でも1960年に始まり6か月間続いた病院ストを皮切りに、1961年・1969年の全国一斉休診ストなど、大規模なものから小規模なものまで多数行われてきた歴史がある。

2006年3月にはドイツにおいて、大学病院に勤務す1万5千人の医師による、労働時間の削減と賃上げを求める大規模ストライキが起きた。引き続いて6月には700の一般(市民)病院で働く7万人の医師による、労働条件改善を求めるストライキが起きた。
Doctors on strike--the crisis in German health care delivery. N Engl J Med. 2006 Oct 12;355(15):1520-2.  

2024年02月26日

医療統計データ Health Statistics

 2024年現在、アメリカは肥満者が多く社会問題になっていると言われている。ところが、ロサンゼルスやニューヨークを旅行で訪れると肥満の人を見かけることは稀である。20人に1人くらいしか肥満の人を見かけない。「肥満がアメリカの社会問題?」と疑わしくなる。これが、テキサスやテネシーなど、日本人が訪れることが稀な中部の州の街だと状況が一変する。「9割以上が肥満!?」と驚くほど肥満者が多い。アメリカの医療統計データによると、2017年の時点で、アメリカ国民の42%が肥満だとされている。

 「現場の感覚」「一般人の感覚」では得ることが出来ないのが医療統計 (Health Statistics) のデータである。ロサンゼルスを訪れた人は「現場の感覚では肥満は、そんなに多くない、、、統計は間違っているのでは?」と感じるし、テキサスを旅した人は「42%なんて生やさしいものじゃない。一般人の感覚だとアメリカ人の9割が肥満だ!」となってしまう。肥満者の分布には地理的な「偏り(かたより)」があるから、現場の人・一般人には全体を認識することは出来ない。

 一般人や現場の人々は、目に見えるものやテレビが伝える映像からの情報を基に判断することが多い。テレビは、視聴者に内容を強く印象付けるためにデータの「偏り」の中で極端な部分を放映するので「真実」とは異なるイメージを一般人に植え付けてしまうことがある。

 各国が公式の統計データを発表していない中、「日本には寝た切りの患者が多い」とか、他国を差して「xx国には寝た切り患者が居ない」などという、根拠の無い医療統計に関する言説が流布することは極めて間違ったことである。

 公式の医療統計データだけが正確に平均値・中央値を示してくれる。一般人の感覚や現場の感覚が間違いであり、統計データを通して「全体」を把握しなければならない。また、統計データの収集も完璧では無い。だから 数%程度の誤差(間違い)が生じることは避けられない。1-2%の違いで「1位は我が国だ!」「2位ではダメだ!1位を追い越せ!」と順位を付けるのは間違いである。1-2%くらいの差ならば「だいたい同じ」と考えるのが妥当である。

 医療統計においては、各国は、各年齢層の人口に大きな差がある(高齢者が多い国や、高齢者が少ない国など)ので直接の比較は出来ない項目がある。高齢者が多い国は死亡者の数が多いから、高齢者が少ない国との間で死亡率を単純に比較すること(租死亡率*)は無意味である。どのような人口構成であっても比較することが出来るように調整する必要がある。年齢調整死亡率*は、年齢層別の死亡率を調整しているので、高齢者の多い国と少ない国での比較が可能である。また、人口構成の影響を受けないので、時間的な推移も正確に判定できる。日本においては租死亡率は上昇しているが、年齢調整死亡率は低下している。

 各国間で医療統計を比較する際には各国が同じ基準に従ってデータを提出する必要がある。各国の医療体制や保険制度の違いから比較は難しい医療統計データであるのだから、統一された基準に従ってデータを提出しなければ、更に、そのデータの信頼度は低くなる。

 広く知られた一例であるが、2010年以前は日本のGDPに占める医療費の割合はOECD各国の中で平均を下回っていた。しかし、これは算出法が他国と異なっていたことにより低い値が出ていたためであり、真の値からは大きく下回っていた。現在でも、古いデータを根拠に「日本の医療政策は優秀で医療支出が他国に比べて大幅に抑えられていた」と記憶している人がいるが、これは間違いである。
 日本においても2011年からは算出法を他国と同じにしたところ、日本のそれはヨーロッパの国々と同等の高さになっている。日本のデータは、2010年以前のデータは間違いであり、2011年以降が信頼できる数字である。このように、各国間で算出法を揃えなければ大きな間違に繋がってしまう。

 また、医療統計のデータから「推測」で原因を考え、根拠が無いまま「結論」を導き出すのも大きな間違いである。

 OECDのデータによれば、全ての先進国の医療費は年々増えている。その伸び率は、アメリカを除いては、ほぼ同程度である。「日本は高齢化が進んでいるから医療費が上昇している。高齢者への医療を減らすべきだ」と主張する人が現在の日本には多い。が、高齢者が国民の29%を占める日本の医療費は GDP比で11.4%であり、高齢化率が20%のフランス・21%のドイツなどと同様の医療費の支出率である。各国に於いて医療システムは少しづつ異なるので比較は難しいと言われるが、これらの国は、どこも皆保険制度であり、窓口支払い率は10%程度であり、上下水道・環境清潔度も、ほぼ同等である。これらを考えると、高齢者人口比率が他の先進国の1.5倍である日本の医療費高騰の主因を高齢者医療費に求めるのは必ずしも正しくない。むしろ、全ての先進国に共通の事象が医療費の増加の原因と考えるのが妥当と思われる。(多くの国では高度医療/高度機材の普及・薬剤価格が医療費の上昇の主因とされている)

 このように医療統計データを示して、根拠の無い「推論」を「結論」のように述べることは、一般人を惑わす間違った情報であり、厳に慎まれるべき行為である。

 各国は文化的・宗教的背景により価値観に違いがあり、それらが医療政策に大きな影響を与えている。しかし、自由主義の先進国においては、平等と人権の尊重が根本的な理念である。医療においても、平等と人権の尊重が実現するため、より良い医療を全国民に提供できるように各国は医療体制の改革を繰り返している。各国は、お互いの医療統計データを公開して、それぞれの良い点・悪い点を明らかにして、どのような修正が、それぞれの国にとって、より良い医療に繋がるのか、改革の参考にしている。

OECD Health at a Glance 2023 Country NoteJapan
OECD Health Statistics 2023 

 

*租死亡率・年齢調整死亡率
参考資料:厚生労働省 統計情報・白書  2.死亡(全死因)の状況https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/other/00sibou/2.html

2024年01月31日

世界の医療の格差の解消・WHOの役割


欧米で信者の多いキリスト教を含めて、全ての宗教で「神の前で全ての人間は平等である」と謳われているが、不幸にして、この教義を踏みにじる者が多いのが現代社会である。

1988年に衝撃的な医学論文が世界一信頼度の高い医学雑誌 New England Journal of Medicine に掲載された: Human immunodeficiency virus infection among men with sexually transmitted diseases. Experience from a center in Africa. N Engl J Med 1988 Aug 4;319(5):274-8.

当時、HIVウイルス感染症は、治療しなければ100%の確率で死に至る病であったが、アメリカで治療薬の開発が進み、死を回避できるようになって来ていた。そんな時代に、欧米人は、アフリカの後進国に踏み入り、患者の観察研究を行った。欧米人の手元には治療薬・予防薬があるにも関わらず、ただただアフリカの小さな国々の中で HIV が、どのように感染し、どのように感染が拡大するかを、患者を治療せず、観察して、(夫にも妻にも HIV に感染していることを告げず)夫から妻に感染する状況などを詳細に観察し、発表したのである。

この研究に対して、非倫理的であるとの非難が殺到した。

これに引き続き、新しいHIV予防薬の臨床試験に関する調査報告がなされ世界に衝撃が走った。

Unethical trials of interventions to reduce perinatal transmission of the human immunodeficiency virus in developing countries. N Engl J Med. 1997 Sep 18;337(12):853-6.

母子感染を防ぎ、乳児へのHIVを予防するためには、当時、欧米では Zidovudine などの予防効果が証明されていた薬剤が標準的に用いられていた。新しい予防薬の効果を確認するために、アフリカにおいて、新薬と偽薬(治療効果のないもの)を比較した臨床試験が、欧米の企業・研究者・医療者によって多数行われているという報告がなされた。効果の検定を迅速に行うために、偽薬との比較を行っていたのである。

これらを含めて1980代・1990年代にはアフリカや東南アジアの後進国・最貧国の人々が実験動物のように扱われ、欧米人など先進国の医療者・研究者の非倫理的な姿勢に大きな非難が集まった。

更に、1990年代には、欧米で HIV 治療薬の開発が進んだが、その価格の高さから、多くの後進国では購入できな状況であった。そんな中、インドは同薬剤の原材料を勝手に大量生産して安価でブラジルやタイに供給した。これらの国は勝手に治療薬・予防薬を製造して安価・無料で自国民に配った。

 これに対して、HIV治療薬・予防薬を開発した企業は「特許権の侵害」を主張して、薬剤の生産の差し止めを求めたが、これらの国は無視した。企業は世界貿易機構(WTO) に特許権の侵害を基に生産差し止めの提訴を行った。これに対し、世界中の倫理的な市民団体が署名活動などの運動を起こし対抗した。

 WTOの裁定に世界中の注目が集まった。貧しい国の人間は、治療薬が手に出来ずに死ぬべきなのか?それとも富める国は、貧しい国が安価で治療薬を作り、国民に提供するのを見逃すべきなのか?

WTO の裁定は「国民の健康が危機に瀕した際には、国は医薬品の特許に関して強制権(権利の差し止め)を発動することができる」「国民の健康上の危機の判断は各国ができる」というものであり、第三世界で猛威を振るう死の病HIV感染症の治療・予防薬を各国が自国で安価に作ることを許す「ドーハ特別宣言」という形で実を結んだ。

 このお陰で、ブラジル、インド、およびタイを含めた東南アジアの国々ではHIV 感染の爆発的拡大を食い止めることが出来、またアフリカの貧しい国々が HIV感染で全国民が死に絶え、消滅することもなくなった。

参考資料:アフリカ日本協議会 「治療アクセスと知的財産権の闘い」の歴史と現在
-映画「薬はだれのものか」から何を学ぶか- 2017年4月 国際保健部門ディレクター 稲場雅紀  https://ajf.gr.jp/globalhealth/aids-treatment/history/

    :ドキュメンタリー映画「薬は誰のものか?Fire in the blood」(2013年)日本語版予告編 https://www.youtube.com/watch?v=Ucx_vSxEtPs

医療技術の進歩は、一歩間違えれば、貧富の差に基づく命の選別に繋がる。医療は、利益を追求することを目的とする資本主義経済活動とは極めて相性が悪い。

医療の世界に、人間性を失ってしまった者を置くことは危険である。医療における非倫理的な行動を取り締まるシステムが、悲劇を止める手段である。

上記のような HIV にまつわる、富める国による非倫理的な暴挙が繰り返されないように、世界レベルで規制するのが世界の国々の役目/国連・WTOの役目であり、世界保健機能 WHO の役目である。

今回の新型コロナ・ウイルスの大流行時に、アフリカ・東南アジアの貧しい国々にもワクチンは届き、世界中で流行を止めることに成功したのは、過去の大きな過ちの歴史の反省に基づくものである。

 

2024年01月22日

医療の質・他の先進国の現状


国民一人当たりの GDP(国内総生産) (GDP per capita) が3万ドル以下の経済的困難を伴う国では、平均寿命 (Life expectancy) が一人当たりGDP額と相関する。そのため、これらの国では経済的な安定が平均寿命の改善の鍵となると考えられている。

 平均寿命に関与する因子は疾病による死亡だけでなく、事故や事件による死亡、戦争による死亡なども加味される。経済的困難を伴う国々は、国家体制が不安定で、内乱や犯罪も多く、戦争・犯罪による死亡や貧困による死亡などが平均寿命の短さに関与している。それ以外にも、これらの国では上下水道の整備や衛生環境の改善が出来ず、国民皆保険 (Universal Health Care UHC) がないために優良な医療にアクセスできない国民も多く、平均寿命が短くなっている。

このような後進国では平均寿命や乳幼児死亡率・各疾患の治癒率などが医療の質の評価の指標の一部となっている。

一方、日本を含めた国民一人当たりGDPが3万ドルを超える国々では、国家体制も安定し、上下水道の整備もされ、医療が国民に平等に届く国民皆保険があるので、平均寿命は81-85歳と、ほぼ、どこの国でも同様である。

(参考資料 先進国G7を含めた医療費の支出の多い国々の一人当たりGDP(2023) ノルウェー10.1万ドル アメリカ8万ドル スウェーデン5.5万ドル フィンランド5.4万ドル カナダ5.3万ドル ドイツ5.1万ドル イギリス4.6万ドル フランス4.4万ドル イタリア3.7万ドル 日本3.5万ドル) 

これらの先進国では、脳血管疾患・心臓血管疾患・大腸癌・肺癌・乳癌・前立腺癌などの頻度の高い疾患の治癒率は、ほぼ、同等であり、医療の質を語る時に、平均寿命・乳幼児死亡率・各種疾患の死亡率/治癒率を比較する意味は無くなっている。

WHO (世界保健機構)は、これら先進国を含めて、医療の質を評価するときに下記の7項目によって評価することを提唱しており、これらの項目を改善することを強く推奨している。

・Effective – providing evidence-based healthcare services to those
       who need them;
 (効果的 - 科学的根拠に基づいた医療を提供する)
・Safe – avoiding harm to people for whom the care is intended; and
 (安全性 - 治療において害悪となるものを避ける)
・People-centred – providing care that responds to individual preferences,
           needs and values.
 (患者中心 - それぞれの好みや必要性・価値観に対応した医療)


To realize the benefits of quality health care, health services must be:

・Timely – reducing waiting times and sometimes harmful delays;
 (タイムリー - 待ち時間を減らす・害になるほどの遅延を減らす)
・Equitable – providing care that does not vary in quality on account of gender,
        ethnicity, geographic location, and socio-economic status;
 (平等 - 性別・人種・居住地域・社会的/経済的な差異によって診療を変えない)
・Integrated – providing care that makes available the full range of health
         services throughout the life course;
 (連続性 - 一生涯を通して十分な医療を受けられる医療環境)
・Efficient – maximizing the benefit of available resources and avoiding waste.
 (有効活用 - 医療資源の最大活用・無駄使いを排除)

(WHO 世界保健機能 Quality of Care 医療の質 (下記リンク)より抜粋)

https://www.who.int/health-topics/quality-of-care#tab=tab_1

他の先進国が、どのように、これら7項目を改善しているかを知ることは、日本の医療の質を欧米並みに高くするためには重要な事であるが、日本に他国の医療の状況に関する正確な情報が入ってくることは極めて少なく、多くの医療者は他国の医療の現状を知らない。

特に「患者中心(People-centred)医療」に関しては、一人当たりGDPや医療費支出額が同等の他の先進国の現状と、日本の現状は大きく掛け離れてしまっている。

日本は、先進国の中でも唯一、1990年代に至るまで「患者に不安を与えないために」という名目で、患者本人に癌告知をしないのが当たり前の国であった。患者に嘘を付くこと・真実を伝えないことが「患者のことを思う優良な医療」・医療者は最良の選択肢を患者のために選んでいるのだから、患者は黙って医療者の指示に従うべき(父権主義 Paternalism パターナリズム)という間違った考え・価値観が支配していた国なので、その間違った価値観を残している医療者も多く、患者中心医療に関する体制も大きく立ち遅れている。

 他の先進国では、医療施設においては患者の権利やプライバシーは重要な項目であり、外来においては、他の者に診療の際の会話やデータが知られないように完全な個室になっている。隣の診察室の声が聞こえるような貧弱な仕切りの外来室や、看護師・事務員が診察している医師の隣を通れるような開放型の診察室は存在しない。

 入院においてもプライバシーを守れるように完全個室が標準である。医学的な制限がない限り、親しい者が自由に訪れられるように面会時間の制限は無い(24時間・365日、いつでも面会に来ることができる)。また、患者が入院している居室にベッドを持ち込み、親しい者(家族など)が宿泊することが可能である程度に広い病室であり、医学的な制限がない限り、親族が患者と共に寝泊まりすることが可能である。また、希望すれば病院から付き添い者に食事が提供される。

 病院食は、メニュー(最近はタブレットからオーダーする病院が多い)から前菜・主食・デザート・飲み物を自由に選べ、自身の好きな組み合わせの食事が出来る。夕食時には、医学的な制限が無ければ、ワイン1杯を提供する病院も多い。

ワクチン接種や衛生面で完全に安全性を確保したペット動物(犬など)を備えている病院も多く、希望すれば、病室で犬に接することが出来る病院も多い。

 プライバシーの保護・親しい者と共に闘病できる環境・自宅とは異なる環境を少しでも快適にするために、食事やペット動物など、普段の生活に近いものにすることが患者中心医療と位置付けられている。

 また、患者は自分の電子カルテにアクセスする権利を与えられ、いつでも医師・看護師が記録したカルテを閲覧し、印刷することが出来る。医師や看護師によるカルテへの記載に間違いがあれば、患者が医師・看護師に記載の修正を要求することができる。

 電子カルテの記載内容を含めて、患者に関する医療情報は患者自身の所有物であり、患者自身が知る権利を持つものとされる。患者に自身の電子カルテへのアクセスを許すことが患者中心医療とされている。

 これらは決して大金持ちの患者だけの特別待遇では無い。他の先進国では、全ての患者が、このような環境を得られるように、多くの病院で改善が続けられている。

 

2024年01月15日

日本の医療制度・世界との比較


不幸にして、現在の世界には「完璧な医療体制」を持つ国は無い。

そのため、世界の国々は、世界保健機構 (WHO) が中心となって、より良い未来を目指して、休むことなく医療体制の改善に取り組んでいる。

医療体制や、それを取り巻く法律、さらには医療にまつわるデータは年々変化している。なので、10年前・20年前の教科書を引っ張り出してきて、日本や世界の医療体制の知識を学ぶことは大きな間違いを生むので、決して行ってはいけない。

公衆衛生学にまつわる知識も、臨床医学や基礎医学のように日々、進化しているので、常に最新のデータを身に付ける必要があり、一度記憶したことを「変わることのない真実」と思って一生て抱えて生きることは、医療者としては愚の骨頂であり、行ってはならない。常に新しいデータを検索することが重要である。

全ての国民が平等に医療にアクセスできる制度・皆保険制度(Universal Health Care UHC) を世界で最初に確立したのはソビエト連邦である。第二次世界大戦前の1937年に確立させている。日本を含めて世界の国々は第二次世界大戦(1945年に終結)の中、大きな混乱の中にあり、UHC の確立までには少し時間が掛かった。特に日本は第二次世界大戦後、極めて劣悪な経済状況・医療状況にあったため、医療体制の改善には多くの時間を要し、他の先進国に遅れ、UHC を取り入れることが出来たのは1961年のことである。

現在、世界の多くの国(59か国以上)は UHC を有しており、日本も、その一つである。日本の医療保健体制は先進国の中では標準的なものと思われる。

アフリカ大陸の国々や東南アジアの国々の中には経済的な困難や不安定な国家体制(内乱や独裁体制など)のため UHC が施行されていない国が多い。米国や中国・インドのように経済的に豊かで国家体制が安定した国であっても、国の方針として法律で皆保険制度を規定しない国もあり、各国の医療体制は、それぞれに異なる。しかし、 WHO は全ての国に UHC が行き渡ることを目指している。

医療の進歩と普及により多くの国で医療費は国民にとって大きな負担になっている。各国の医療費を比較するときに、各国の GDP(国内総生産)に占める医療費%で表現するのが一般的である。

2022年現在、OECD(経済開発協力機構)に加盟している、先進国ならびに政治体制の安定した発展途上国・38カ国は様々なデータを提供して、その国の現状を公開している。これによると GDP に占める医療費(Health Expenditure as a share of GDP) は、米国の16.6%を筆頭に、2位ドイツ12.7%、3位フランス12.1%、4位日本11.5%と続く。

(参考資料 
  GDPの高い国々 (2022)アメリカ26.19兆ドル(中国19.24兆ドル)日本4.37兆ドル ドイツ4.12兆ドル(インド3.82兆ドル)イギリス3.48兆ドル フランス2.81兆ドル カナダ2.30兆ドル

  先進国G7のGDPに占める軍事費/防衛費%(2022) アメリカ3.45% イギリス2.23% フランス1.94% イタリア1.68% ドイツ1.39% カナダ1.2% 日本1.08%)

個人が医療機関の窓口で支払う自己負担額(out-of-pocket fee) は、日本を含めて、どの国でも全医療費の10%程度であり、残りの90%は保険料や税金から支払われている。

イタリアを除くG7 (先進7カ国)や福祉制度の充実した北欧の国々の医療費は10%を越えているので、日本の医療費は先進国としては平均的なものと思われる。

https://www.oecd-ilibrary.org/sites/d5dbe32a-en/index.html?itemId=
   /content/component/d5dbe32a-en

 

 

OECD iLibrary /Health expenditure in relation to GDP より抜粋

2024年01月12日

【学会参加報告】アメリカ血液学会(ASH) 総会


第65回アメリカ血液学会 (ASH: American Socitety of Hematology) が2023年12月9日から12日までカリフォルニア州サン・ディエゴ市で開催されました。

米国だけでなく世界中の血液学に関わる医療者・研究者が集まる世界最大級の国際学会でした。

栄誉ある学会賞であるErnest Beutler 賞を日本人の北沢剛久先生(中外製薬)が受賞されました。

北沢先生は、血友病Aの新しい治療薬であるエミシズマブを開発し、血友病Aの治療を一変させた研究者です。遺伝子組み換え型第8因子製剤ではなく、二重特異抗体を使って、第8因子の機能を代替させるという革新的な発想で、この新薬を開発しました。

それ以外にも多くの国の先生方が革新的な研究成果を多数発表されていました。

第65回アメリカ血液学会総会 CAR-T療法を提供しているGilead/Kite社

サンディエゴ湾。学会賞受賞の北沢先生。ガスランプ・クオーター。

川又教授とドイツのイワンスキー先生・チリのスピノサ先生。

2023年12月22日

【学会参加報告】日本臨床検査医学会総会・長崎

2023年11月16日から19日まで、日本臨床検査医学会 学術集会が長崎市・出島メッセ長崎で開催されいました。

同学会の長崎での開催は、実に30年ぶりとのことでした。当日はアメリカ・ミシガン大学のゼマンス先生やシンガポール大学のライ先生など海外からの先生方の御講演もありました。

感染症検査の専門家であり、学会長を務められた長崎大学教授の栁原(やなぎはら)先生からは新型コロナの診断に関するお話や最新のAIによる診断学の御話しを頂きました。

血液凝固検査の発展に多大なる貢献をされた元・東京大学教授の矢富先生や白血病などの血液疾患研究で有名な東北大学教授・張替先生などからも素晴らしい御講演を頂きました。

更には、認知症や精神疾患におけるバイオ・マーカーの研究や、抗体薬の研究開発に関する講演など、未来の臨床検査に取り入れられるであろう、様々な最新の知見が紹介されていました。

多くの最先端の知識を得ることのできる有意義な学会でした。

栁原先生の御講演・感染症の御話し/診察画像からAIがインフルエンザを診断する技術

矢富先生の血液凝固に検査に関する御講演・張替先生の白血病に関する御講演

2023年11月27日

川又教授が臨床検査学科・同窓会で御講演されました。



川又教授が11月20日(日)に開催されました、東京工科大学・医療保健学部・臨床検査学科の卒業生の同窓会で「医療と臨床検査の過去・現在・未来」というタイトルで御講演されました。

臨床の場で活躍されている卒業生の皆さんは、医学や臨床検査学の発展のスピードを実感しており、教授の御話しに大変感銘を受けていました。

2023年11月20日

【学会参加報告】日本血液学会・東京


2023年10月13日から15日まで、3年ぶりに対面による日本血液学会学術集会 (JSH) が東京国際フォーラムで開催されいました。

 当日は1,300題の発表と6,000人を越える参加者があったそうです。日本最大の血液学の国際学会ということで、インド・中国・韓国・タイ・マレーシア・シンガポールなどのアジアの国々の血液学を専門とする医療者や研究者の参加がありました。

 更に、ヨーロッパやアメリカからも多数の参加がありました。ヨーロッパ血液学会のフランスのエリザベス・マキンチル先生、細胞療法CAR-T療法の研究で有名なアメリカ・ニューヨークのスローン・ケタリング癌センターのサデライン先生、リンパ腫の研究で有名なチェソン先生など、世界的に著名な先生方が最新のデーターを発表されていました。

 その他にも、ハーバード大学やジョンズ・ホプキンス大学を含めたアメリカ・ヨーロッパ・アジアの多くの優れた大学の先生方が御講演され、大変勉強になりました。

 発表の後に英語での質疑応答がありましたが、日本人の先生だけでなく、中国やインドなどのアジアの先生方からも質問があり、国際学会の意義の高さを感じました。

学会の後の懇親会では、世界中の先生方とお話する機会が得られ、見分を広めるのに大変役に立ちました。

13日と14日は素晴らしいお天気でした。多くの方の参加がありました。

左からフランス・パリ・シテ大学・マキンチル先生、アメリカ・ニューヨーク・スローン・ケタリング癌センター・サデライン先生、メリーランド州ベセスダ・癌血液疾患センター・チェソン先生

インド血液学会前会長パティ先生と スウェーデンの先生方と ペンシルバニア大学の先生方と

2023年10月16日

2023.7.24.科学の進歩「日本人の起源...」


日本人の起源は縄文人であると知られている。しかし、弥生時代に中国大陸から多くの移民が流入し、その後、移民の流入が止まって、日本人は、長く、単一民族として暮らして来た、、、という、日本人は2種の人種を起源とするという学説が、ずっと信じられてきた。

縄文時代は紀元前14,500年から紀元前1,000年という長い期間である。この間に、中国大陸あるいは北方から日本人の起源の縄文人は日本列島に流入して来たと考えられている。

弥生時代は紀元前1,000年から紀元250年の間の期間であるが、この間に多くの移民が、中国大陸の北東部(北東アジア)から流入したと考えられている。

最新の DNA解析技術は、古代人のDNAを分析することを可能にし、日本人の起源を詳しく知ることを可能にした。

上記の、縄文人の存在や、弥生時代の大量な移民の流入の跡が、現代の日本人の DNA には残っている。

 驚くことに、最新の分析技術により、日本には弥生時代の後の紀元250年から600年の古墳時代に、再び、大量の移民が流入し、その混血によって現代の日本人の基礎が形成されていたことが分かった。この古墳時代の移民は、弥生時代の中国大陸の北東民族とは異なる、東方民族(東アジア祖先=中国の漢民族)だということが分かった。現代の日本人は、ずっと信じられてきた2種の混血からの形成では無く 1)縄文祖先2)北東アジア祖先3)東アジア祖先の3種の混血で成り立っていることが新たに分かった。

DNA解析技術の発達は、医学・検査学の進歩だけでなく、多くの新しい知見をもたらしてくれている。

Cooke NP et al. Ancient genomics reveals tripartite origins of Japanese populations. Sci Adv. 2021 Sep 17;7(38):eabh2419.

The Asahi Shimbun/ Aasia and Japan Watch より https://www.asahi.com/ajw/articles/14444926

サイカル Science and Culture journal by NHK よりhttps://www3.nhk.or.jp/news/special/sci_cul/2021/10/story/2021-10-story-story_211005/

Cooke NP et al. Sci Adv. 2021 Sep 17;7(38):eabh2419.Figure 6 より(原図のまま)

 

 

2023年07月24日

2023.7.19.医療「歩くことは...」


今日の授業からーーー「歩くことは体に良い」と古くから言われていますが、さて、1日、何歩くらい歩くと体に良いのでしょうか?体に良いとは具体的に、どのような効果があるのでしょうか?

アップル・ウォッチなどのウェラブル・デバイスが開発され、多くの人が腕時計と同様に、一日中装着しています。これを使って肉体的なアクティビティー(歩数や心拍数など)を知ることが出来ます。これらのデータを集めて、各人の健康状態と照らし合わせて「歩くこと」の有用性を詳しく解析した論文が発表されました。

Master H et al. Association of step counts over time with the risk of chronic disease in the All of Us Research Program. Nat Med. 2022 Nov;28(11):2301-2308.

6,000人の4年間にわたる歩数と健康状態の関係を検証したそうです。肥満・睡眠時無呼吸症・逆流性食道炎・うつ病は一日8,200歩を越えて歩けば、歩数が増せば増すほど改善が見られたそうです。
 糖尿病や高血圧は、1日8,000-9,000歩を歩くと、そこで改善効果が頭打ちになってしまって、それ以上歩いても更なる改善は見られなかったとのことです。

どうも、一日8,200歩以上歩くのが良いようです。

ただ、、、これは「肥満大国・アメリカ」「車社会・アメリカ」のデータで、BMIの中央値が28.1 の中年白人女性が主体の調査(1日の歩数の中央値は7,700歩)なので、日本人でも同じなのかどうかは不明です。

日本人のデータも発表してもらいたいものです。

2023年07月19日

2023.7.3. 医療「飛行機内の急病人」


今日の授業からーーー飛行機の中の急病人の話はテレビ・ドラマでは良く目にする話ですが、、、では実際は、どの程度の頻度で起きるのでしょうか?

 以前の研究によると604便に1例の頻度だそうです。多くの人は、一生のうちに一回遭遇するか・しないか、という極めて稀な出来事です。

 48.1 %で乗り合わせていた医師が対応して下さったそうです。緊急着陸が必要だった例は7.3 %だったそうです。死亡例は 0.3% だったそうです。

Peterson DC et al. Outcomes of medical emergencies on commercial airline flights. N Engl J Med. 2013 May 30;368(22):2075-83.

 ニュージー・ランドなどの、いくつかの国では、医師を含めて医療者が飛行機内での急病人に対応することが法律で義務化されていますが、多くの国では法的な義務 legal obligation はありません。
 しかし、多くの先進国では医療者には倫理的な義務 ethical obligation(「医療者は良い行動をしなければならない」という医療者としての倫理規範)が課せられているので、診療に参加することが推奨されています。(アメリカでも日本でも飛行機内での急病人に対応した医療者が訴えられた例は無いそうです)

乗り合わせた医師が、どのように対応するべきかという内容もアメリカの医学雑誌には繰り返し掲載さています。

Nable JV et al. In-Flight Medical Emergencies during Commercial Travel. N Engl J Med. 2015 Sep 3;373(10):939-45.

Gendreau MA, DeJohn C. Responding to medical events during commercial airline flights. N Engl J Med. 2002 Apr 4;346(14):1067-73.

If someone could benefit from your experience , I think, you should provide it.  「あなたの経験が誰かの役に立つなら、役立てて下さい」と  
 アメリカでは教えています。

(NEJM Quick Take:The Epidemiology of In-Flight Medical Emergencies. 2013. https://www.youtube.com/watch?v=ZDSm8iZMT9k)

2023年07月03日

2023.6.26.医療「熱傷の...」


今日の授業よりーーー熱傷(ねっしょう:やけど)の重症度を判定するには熱傷指数(BI Burn Index) が用いられます。「熱傷の広さ」と「深さ」に基づいて指数を計算します。

更に予後(患者さんが改善するかどうか)を判定する指標には熱傷予後指数(PBI Prognostic Burn Index) を用います。熱傷予後指数は熱傷指数に患者さんの年齢を足したものです。

熱傷の予後推定には熱傷の「広さ」「深さ」・患者さんの「年齢」が重要です。

2023年06月26日

2023.6.23. 医療「ロボット・スーツ」


今日の授業からーーー医療用ロボット・スーツ「HALⓇ(ハル)」/麻痺のある患者さんのリハビリを助ける医療用マシン。

(NEWSつくば の記事より「つくば生まれのHAL 病院導入にはずみ 4月からの診療報酬改定で」2022年2月16日 https://newstsukuba.jp/36670/16/02/ )


(多くの方が HAL で運動機能を取り戻して欲しいです)

2023年06月23日

2023.6.19. 医療「パーキンソン患者と自転車」


今日の授業からーーーパーキンソン病患者さんは自転車に乗れる。医学雑誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンの2010年4月1日号の記事より。Snijders AH, Bloem BR. Images in clinical medicine. Cycling for freezing of gait. N Engl J Med. 2010 Apr 1;362(13):e46.


(パーキンソン病で苦しむ方を救うデバイスが開発することを期待します)

2023年06月19日

2023.5.22. 医療「BMIの正常値と...」


今日の授業からーーー肥満や痩せ(やせ)を判定するために体格指数(BMI Body Mass Index) を計算することが一般化している。身長と体重から計算するが、今は多くのサイトで自動計算してくれる(厚生労働省のサイトより)。サイトにある通り、18.5ー24.9が正常とされている。

 しかし、日本人における BMI と死亡率の関係を検討したがん対策研究所からの発表に(Journal of Epidemiology 2011年 21巻 417-430ページ)よると、21-26.9が死亡率の低い集団だとされている。むしろ痩せ気味は死亡率が高く、太り気味は死亡率が低い(男性において、一番死亡率が低いのは 25-26.9 の集団だった)。当然、理想の BMI は「低い死亡率を示す BMI」だろう。

https://epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/2830.html がん対策研究所のサイトより

2023年05月22日

2023.5.22.医療「糖尿病治療薬...」


今日の授業からーーー糖尿病の治療薬には様々なものがあります。

①ビグアナイド系薬
②スルフォニル尿素系薬
③アルファ・グルコシダーゼ阻害薬(αGI)
④DPP-4阻害薬
⑤グリニド薬
⑥SGLT2阻害薬
⑦GLP-1受容体作動薬

と7系統もあります。各先生が、思い思いに各患者さんにとってベストの治療薬を選んでいます。

欧米では、今、⑥と⑦の治療薬が爆発的に使用され始めています。特に⑦GLP-1受容体作動薬には強力な体重減少効果が認められたので、「肥満大国・アメリカ」では、この治療薬が好まれています。以前は注射薬しか無かった⑦の薬ですが、今回、経口薬が発売されたので、更に、使いやすくなり、服用する患者さんの数がアメリカでは増えるでしょう。

Wharton S et al; GZGI Investigators. Daily Oral GLP-1 Receptor Agonist Orforglipron for Adults with Obesity. N Engl J Med. 2023 Jun 23.

⑥SGLT2阻害薬は「尿から糖分を出してしまう」という逆転の発想に基づいて作られた薬です。尿検査では「検査結果の悪化(尿糖陽性)」が認められてしまいますが、体の中の糖分(血糖値)は下がっているので、血液のデータは良くなって行きます。心不全にも効果を示すことが報告され、アメリカでは好んで処方され始めています。

Solomon SD et al; DELIVER Trial Committees and Investigators. Dapagliflozin in Heart Failure with Mildly Reduced or Preserved Ejection Fraction. N Engl J Med. 2022 Sep 22;387(12):1089-1098.

(肥満の糖尿病患者が多い「肥満大国・アメリカ」では、今後、⑥と⑦が主流になるでしょう。日本では、どうなるのでしょうか?)

2023年05月22日

2023.5.8. 医療「胃癌とピロリ菌...」


今日の授業からーーー日本人の胃癌患者の99%はピロリ菌感染が認められる。

 故に、ピロリ菌感染が胃癌の引き金になっていると考えられている。症状が無くても胃レントゲン(胃バリウム検査)や胃カメラでピロリ菌感染が疑われたら、必ず詳しい検査をするべきである。ピロリ菌感染が認められたら、症状が無くとも除菌する必要がある。こうすることで胃癌の発症のリスクを下げることが出来る。(がん対策研究所「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」研究班からの発表)

 最近の日本からの発表によると、ピロリ菌感染だけでなく、患者が持つ遺伝子的な背景が胃癌の発症には大きく関わっていることが発見された。遺伝子修復に関する蛋白をコードする遺伝子に異常がある患者はピロリ菌感染により胃癌の発症リスクが極めた高くなる(16倍)とのことである。

Usui Y et al. Helicobacter pylori, Homologous-Recombination Genes, and Gastric Cancer. N Engl J Med. 2023 Mar 30;388(13):1181-1190.

(近い将来、個々のピロリ菌感染者の遺伝子解析が行われて、リスク別に、その後の経過観察のスケジュールが組めるようになって欲しい)

2023年05月08日

2023.4.24. 医療「AED」


今日の授業からーーー日本のデータ。43,762人の心室細動を起こした患者のうち、 4499 (10.3%) が傍にいた一般人から AED による治療を受けた。1カ月に元気に回復している人の割合は、AED を受けた人では 38.5% であったが、AED治療を受けていない人では18.2%だった。

心室細動からの回復は、AED治療を受けないと2割に達しない。極めて困難な疾患である。

一方、AED 治療を受けた患者の回復は4割近くまで改善している。AEDの有効性は驚異的であり、必ず使うべきである。

Kitamura T et al. Public-Access Defibrillation and Out-of-Hospital Cardiac Arrest in Japan. N Engl J Med. 2016 Oct 27;375(17):1649-1659.

東京消防庁公式サイトより https://www.youtube.com/watch?v=FGYZ8jAsd8c

 

(「『AEDを使ったら訴えてやる』と言っている女性がいた」などという嘘の風評に騙されずに、AED が、少しでも多くの心室細動で倒れた方に使われて欲しいです)

2023年04月24日