国民一人当たりの GDP(国内総生産) (GDP per capita) が3万ドル以下の経済的困難を伴う国では、平均寿命 (Life expectancy)
が一人当たりGDP額と相関する。そのため、これらの国では経済的な安定が平均寿命の改善の鍵となると考えられている。
平均寿命に関与する因子は疾病による死亡だけでなく、事故や事件による死亡、戦争による死亡なども加味される。経済的困難を伴う国々は、国家体制が不安定で、内乱や犯罪も多く、戦争・犯罪による死亡や貧困による死亡などが平均寿命の短さに関与している。それ以外にも、これらの国では上下水道の整備や衛生環境の改善が出来ず、国民皆保険
(Universal Health Care UHC) がないために優良な医療にアクセスできない国民も多く、平均寿命が短くなっている。
このような後進国では平均寿命や乳幼児死亡率・各疾患の治癒率などが医療の質の評価の指標の一部となっている。
一方、日本を含めた国民一人当たりGDPが3万ドルを超える国々では、国家体制も安定し、上下水道の整備もされ、医療が国民に平等に届く国民皆保険があるので、平均寿命は81-85歳と、ほぼ、どこの国でも同様である。
(参考資料 先進国G7を含めた医療費の支出の多い国々の一人当たりGDP(2023) ノルウェー10.1万ドル アメリカ8万ドル スウェーデン5.5万ドル フィンランド5.4万ドル カナダ5.3万ドル ドイツ5.1万ドル イギリス4.6万ドル フランス4.4万ドル イタリア3.7万ドル 日本3.5万ドル)
これらの先進国では、脳血管疾患・心臓血管疾患・大腸癌・肺癌・乳癌・前立腺癌などの頻度の高い疾患の治癒率は、ほぼ、同等であり、医療の質を語る時に、平均寿命・乳幼児死亡率・各種疾患の死亡率/治癒率を比較する意味は無くなっている。
WHO (世界保健機構)は、これら先進国を含めて、医療の質を評価するときに下記の7項目によって評価することを提唱しており、これらの項目を改善することを強く推奨している。
・Effective – providing evidence-based healthcare services to those
who need them;
(効果的 - 科学的根拠に基づいた医療を提供する)
・Safe – avoiding harm to people for whom the care is intended; and
(安全性 - 治療において害悪となるものを避ける)
・People-centred – providing care that responds to individual preferences,
needs and values.
(患者中心 - それぞれの好みや必要性・価値観に対応した医療)
To realize the benefits of quality health care, health services must be:
・Timely – reducing waiting times and sometimes harmful delays;
(タイムリー - 待ち時間を減らす・害になるほどの遅延を減らす)
・Equitable – providing care that does not vary in quality on account of
gender,
ethnicity, geographic location, and socio-economic status;
(平等 - 性別・人種・居住地域・社会的/経済的な差異によって診療を変えない)
・Integrated – providing care that makes available the full range of health
services throughout the life course;
(連続性 - 一生涯を通して十分な医療を受けられる医療環境)
・Efficient – maximizing the benefit of available resources and avoiding
waste.
(有効活用 - 医療資源の最大活用・無駄使いを排除)
(WHO 世界保健機能 Quality of Care 医療の質 (下記リンク)より抜粋)
https://www.who.int/health-topics/quality-of-care#tab=tab_1
他の先進国が、どのように、これら7項目を改善しているかを知ることは、日本の医療の質を欧米並みに高くするためには重要な事であるが、日本に他国の医療の状況に関する正確な情報が入ってくることは極めて少なく、多くの医療者は他国の医療の現状を知らない。
特に「患者中心(People-centred)医療」に関しては、一人当たりGDPや医療費支出額が同等の他の先進国の現状と、日本の現状は大きく掛け離れてしまっている。
日本は、先進国の中でも唯一、1990年代に至るまで「患者に不安を与えないために」という名目で、患者本人に癌告知をしないのが当たり前の国であった。患者に嘘を付くこと・真実を伝えないことが「患者のことを思う優良な医療」・医療者は最良の選択肢を患者のために選んでいるのだから、患者は黙って医療者の指示に従うべき(父権主義 Paternalism
パターナリズム)という間違った考え・価値観が支配していた国なので、その間違った価値観を残している医療者も多く、患者中心医療に関する体制も大きく立ち遅れている。
他の先進国では、医療施設においては患者の権利やプライバシーは重要な項目であり、外来においては、他の者に診療の際の会話やデータが知られないように完全な個室になっている。隣の診察室の声が聞こえるような貧弱な仕切りの外来室や、看護師・事務員が診察している医師の隣を通れるような開放型の診察室は存在しない。
入院においてもプライバシーを守れるように完全個室が標準である。医学的な制限がない限り、親しい者が自由に訪れられるように面会時間の制限は無い(24時間・365日、いつでも面会に来ることができる)。また、患者が入院している居室にベッドを持ち込み、親しい者(家族など)が宿泊することが可能である程度に広い病室であり、医学的な制限がない限り、親族が患者と共に寝泊まりすることが可能である。また、希望すれば病院から付き添い者に食事が提供される。
病院食は、メニュー(最近はタブレットからオーダーする病院が多い)から前菜・主食・デザート・飲み物を自由に選べ、自身の好きな組み合わせの食事が出来る。夕食時には、医学的な制限が無ければ、ワイン1杯を提供する病院も多い。
ワクチン接種や衛生面で完全に安全性を確保したペット動物(犬など)を備えている病院も多く、希望すれば、病室で犬に接することが出来る病院も多い。
プライバシーの保護・親しい者と共に闘病できる環境・自宅とは異なる環境を少しでも快適にするために、食事やペット動物など、普段の生活に近いものにすることが患者中心医療と位置付けられている。
また、患者は自分の電子カルテにアクセスする権利を与えられ、いつでも医師・看護師が記録したカルテを閲覧し、印刷することが出来る。医師や看護師によるカルテへの記載に間違いがあれば、患者が医師・看護師に記載の修正を要求することができる。
電子カルテの記載内容を含めて、患者に関する医療情報は患者自身の所有物であり、患者自身が知る権利を持つものとされる。患者に自身の電子カルテへのアクセスを許すことが患者中心医療とされている。
これらは決して大金持ちの患者だけの特別待遇では無い。他の先進国では、全ての患者が、このような環境を得られるように、多くの病院で改善が続けられている。