制限酵素 (Restriction Enzyme) は細菌から抽出された、塩基配列特異的な DNA 切断酵素である。例えば EcoRI という酵素は DNA 配列が GAATTCという配列を見つけて、その部位を切断する。制限酵素は分子生物学的実験を行う時に重要なツールなので、各メーカーから多数の制限酵素が発売されている。
人間の DNA は、しばしば C がメチル化修飾を受けている。制限酵素によってはメチル化している配列は切断せず、非メチル化配列の時に切断するものもある。多くの制限酵素はメチル化配列も非メチル化配列も同様に切断する。
制限酵素で DNA を切断する際には、至適のイオン濃度が必要であり、各社から制限酵素を購入すると、10倍濃度の至適緩衝液(バッファー)が添付されてくるので、それを10分の1量加えて、反応させる。反応温度は、多くの酵素が37℃であるが、中には低温(30℃など)が至適温度の酵素もある(多くが37℃でも切断効率は落ちるが、問題なく切断できる)。通常、一昼夜(over-night オーバーナイト)の反応を行う。
人間の細胞の染色体は DNA の塊であるが、染色体は1番から22番の常染色体とXY(男性の場合)あるいはXX (女性の場合)の性染色体から構成される。常染色体は、母親由来の1番染色体と父親由来の1番染色体のように、各番号の染色体が2本ある。なので、合計44本の染色体+XYあるいはXX性染色体の合計46本の染色体が各細胞には備わっている。
父親由来の染色体の中のDNA と母親由来の染色体の中のDNA は、ほぼ100%、配列が同じであるが、数千塩基配列に1回程度、父由来と母由来の DNA 配列が1塩基だけ違うことがある。これをポリモルフィズム(polymorphism 遺伝子多型)と呼ぶ。
例えば父方からの配列がGAATTC なのに、母由来のDNAの配列は GAATCC だったりする。その周囲の配列は父由来の物も、母由来の物も、まったく同一である。
この時、上記の制限酵素 EcoRI を使って切断すると、父方由来の配列は切断されるが、ポリモルフィズムのある母由来の配列は切断されない。その部位だけ、DNAが50%しか切断されない。
このポリモルフィズムは個人差があり、人によっては存在しない(父方由来も母方由来も GAATTC)。このような場合は EcoRI で切断した場合に100%の切断が起こる。
この領域をPCR で増幅し、制限酵素で切断した場合に、その切断後の断片(フラグメント fragment) の長さ(Length) に違いが出る。GTTAAC 配列の DNAは切断され短くなり、GTTACC 配列は切断されないので長いままである。
このようにして、その領域を PCRで増幅し、PCR産物を制限酵素で切断し、ゲルに流して切断の有無を、酵素処理後の DNA の長さで検討する方法を PCR-RFLP (Restriction-enzyme Fragment Length Polymorphism) 法と呼ぶ。
癌細胞では、しばしば1本のDNAが点突然変異を起こし、1塩基のみ配列が変化している場合がある。このような点突然変異の検出にも PCR-RFLP法は用いられる。
ちなみにPCR産物は全て非メチル化DNAなので、酵素の特性(メチル化配列を切断するかどうか)をチェックする必要は無い。
