アメリカの医師不足問題
高齢者の増大や少子化は先進国にとって共通の課題である。これから30年の間にはベビーブーム世代(団塊の世代)やベビーブーマージュニア世代(団塊ジュニア世代)が高齢化して多くの医療資源を必要とすることが全ての先進国で予想されるので、各国、その対応に追われている。
アメリカの現状を詳細に検討し、今後の対策に関しての提言が発表された。
Walensky PR and McCann NC. Challenges to the Future of a Robust Physician Workforce in the United States. N Engl J Med 2025;392:286-295.
アメリカにおいては、地域によって平均寿命に大きな差があるのは良く知られた事実である。また、地域によって脳卒中などの脳疾患やタバコが原因の肺疾患、うつ病の発症頻度にも大きな差があることも知られている。
脳卒中は気温の低い地域で多ので、北部の州では、その発症頻度が高いが、必ずしも平均寿命は短くない。一方、温かい南部の地域でも脳卒中の頻度は高く、南部地域の平均寿命は極めて短い。
今回の論文では、医師不足地域と平均寿命の短い地域とが重なることが明らかになった。北部の州での医師不足は、南部に比べると程度が軽い。平均寿命の極めて短い地域での医師不足は極めて深刻であることが分かった。
論文の中では:
・医師の仕事量の軽減:医療者間のタスク・シェアを進めることにより(特に医師不足地域では)医師の労働量を減らしたり、医師の「燃え尽き」による、更なる医師数の減少に歯止めをかける必要があるとされている。
・医師の偏在の解消:医師不足の原因の一つに、医師の偏在(都市部や中ー高所得者が住む地域での勤務に医師が集中し、僻地や低所得者層の居住区での医師不足が進んでいる)がある。医師が不足している地域では医療の大部分を背負うプライマリーケア医が不足している。プライマリーケア医の給与は専門医の給与に比べて大きく劣るため、目指す若い医師が少ない。プライマリーケア医と専門医の給与の差を小さくすることにより、プライマリーケア医を増やすことで医師不足地域のプライマリーケア医を増やせるかもしれない。
・医師数の増大:医大の授業料を下げ(無料にし)て、医師不足地域(低所得者が多数住む地域)の若者で、医師になりたいと思う者に門戸を開けること(ただ、この試みは上手く行っていない)や、授業料や生活費を提供する代わりに僻地(医師不足の低所得者居住地区)での勤務を義務付ける方法などが提言されている。
医師不足地域に医大を作り、その地域の若者を優先的に入学させ、卒業後は、その地域での診療を行わせることも提言されている。
外国人医師の採用を増やすことも考えられるが、多くの外国人医師は医師不足地域(僻地勤務)を嫌い、大都市での勤務に就くので、医師不足地域の解消には現状では、あまり寄与しないかもしれない。
などなど上記を含めて様々な解決策(potential solution) が提言されている。
30年後には高齢者の比率は、現在の状況から一変して、医療を必要とする高齢者の数は大幅に減ることが予想されている。医学生の数を今から増やしても、彼ら・彼女らが活躍する25-35年後には「医師余り」が深刻化する可能性が高く、昨今の韓国のように若い医師からの、医学部定員の増員に対する反対運動が起きるかもしれない。
今回の論文・提言に対しては世界中から(特に先進国から)賛否両論、さまざまは意見が寄せられるだろう。
