癌の治療の場合は、生存率(全生存率 OS Overall Survival) が最も重要な最終指標(End Point) である。新しい治療で治る人が旧来の治療で治る人より多いことが重要である。
急性白血病やび慢性大細胞型B細胞悪性リンパ腫(DLBCL) のような進行の速い(悪性度の高い)病気の場合、治療が上手く行かなければ(再発すれば)急速に進行して命を落とすので、その治療成績(全生存率
OS)は比較的短期間(数年で)に判定できる。しかし、ろ胞性リンパ腫や多発性骨髄腫のように、再発しても、ゆっくり進行する病気・再発後に良い治療法がある病気の場合などは、生存率の確認まで5-10年(さらには、それ以上)の長い時間が必要である。
このような疾患においては、新しい治療法(新薬など)の治療効果の判定を少しでも早くするために、生存率 (OS) の代わりとなる、早めに治療効果(生存率が良くなる可能性のある証拠)が推測できる指標が望まれる。生存率
(OS) の代わりになる治療の効果の有無を判定する指標をサロゲート・マーカーと呼ぶ。
再発率はサロゲート・マーカーの候補となる。医学の世界では「再発しない確率=無再発生存率 PFS (Progression Free Survival)
」が OS のサロゲート・マーカーとして用いられることがある。
サロゲート・マーカーの結果は生存率(OS) と極めて高い関連性があることが求められる。しかしOSとPFSの結果が噛み合わない場合がある。
再発しない確率(PFS) は、有効な再発後の治療法(2次治療・3次治療など)がある場合には、生存率(OS) との関連性が低くなり、サロゲート・マーカーにならない。過去にサロゲート・マーカーとして使われていた指標でも、医学の進歩によって有効な再発に対する治療法が開発されると、使い物にならなくなので、常に「これは、まだサロゲート・マーカーとして使って良いものなのか?」と確認が必要である。疾患と治療法の組み合わせによっては「再発しない確率
(PFS)」 は「生存率 (OS)」 のサロゲート・マーカーにならないことが報告されている。
Milrod CJ. et al. Progression-free survival is a weakly predictive surrogate
end-point for overall survival in follicular lymphoma: A systematic review
and meta-analysis. Br J Haematol. 2024 Jun;204(6):2237-2241.
Etekal T. et al. Time-to-event surrogate end-points in multiple myeloma
randomised trials from 2005 to 2019: A surrogacy analysis. Br J Haematol.
2023 Mar;200(5):587-594.
再発例に有効な薬剤が次々と開発される現在では、新薬の認可に際して再発率の低下(PFSの改善)だけ(生存率 OS の改善が確認されていなくても)を確認されれば厚生労働省から承認され、臨床の場で使えるようになる。
再発率は下げる(PFS は良くなる)が、生存率(OS) の改善が無い新治療が多数存在する。これは、再発しても、その後に有効な治療法がある、という意味であり、必ずしも旧治療を新治療に置き換える必要が無いことを意味する。
このような場合、その新治療の使い方には議論が分かれる。
患者の立場に立てば「再発しない方が有り難い」と感じる反面、その治療が大きな副作用を伴うような場合には「再発してから、辛い治療を受けても良いかなあ。。。」などと考える。
医療費の観点からは新治療が高価なものであれば、全例に用いるのでなく、再発例だけに用いれば、医療費の過剰な出費を防げる。
医療者の立場に立てば、再発治療に従事する必要が無くなるので、再発例の少ない新治療を選択したいと考える医療者もいれば、もし、その新治療が多大な労力を要するものなら「再発例にだけ使えば総労力は、そっちの方が少ない」と考える医療者もいる。
新治療の「価格」「副作用の多さ」「医療者の労力の多さ」が、その「OSは改善しないがPFSは改善する治療」を全例に行うか、再発例だけに行うか、を決定する要素となる。
世界的なガイドラインにも OS の改善の確認が無いにも関わらず、外来での治療が可能・内服治療で良い、など患者の QOL が改善する点を重視して、PFS
の改善のみで新治療を Preferred regimen (より好ましい治療法) として、旧治療よりも推奨しているものも多い。