癌において年間発症頻度が10万人当たり6人未満の疾患を「希少癌」と呼ぶが、癌以外の病気でも稀なものがある。IgG4 関連疾患は10万人当たり10人程度の珍しい病気である(以前は、10万人当たり0.8人と希少疾患だが思われいたが、診断精度が上がり、報告例が増えている)。大きな病院なら年間、数名の初発患者が受診する程度である。
この病気は、多くの人が耳にしたことの無い病気であるが、国の難病にも指定されており、一定の条件を満たせば掛かった治療費に対して補助が行われる(指定難病患者への医療費助成制度)。
この病気は信州大学の浜野博士らが世界で初めて発見した疾患であり、日本の医療者の間では比較的知られている病気でもある。国内にも IgG4 関連疾患センターという、この疾患の診断・治療に特化した部門を持つ病院も多い。
Hamano H et al. High serum IgG4 concentrations in patients with sclerosing
pancreatitis. N Engl J Med. 2001 Mar 8;344(10):732-8.
この病気は癌ではないが、癌のように腫瘤(かたまり)を形成することが多く、CTなどの画像検査から、しばしば癌と誤解される。そこで、病理診断をして癌で無いこと(IgG4関連疾患であること)を確認する必要がある。特に膵臓・脳・後腹膜・血管など、サンプル採取が困難な場所に腫瘤が出来た場合は、病理診断無しで癌と診断するのは大きな誤診を生むので注意が必要である。
IgG4関連疾患による腫瘤の場合、当然、癌では無いので根治切除の必要は無い。下記の薬物治療で改善する。IgG4関連疾患や、それに良く似た自己免疫性膵炎では膵臓に腫瘤を認め、膵臓癌との区別が問題になる。しっかりとした検査を行って、間違った治療(癌の治療の根治的手術や放射線治療・抗がん剤治療)をIgG4関連疾患の腫瘤に対して行わないことは重要である。
「特別寄稿 そのしこり、本当にがんですか?―悪性腫瘍との鑑別が必要なIgG4関連疾患―」東京都立病院機構がん・感染症センター都立駒込病院長 神澤 輝実 令和5年(2023年)2月20日(月) / 日医ニュース
IgG4関連疾患は、T細胞やB細胞などの免疫細胞の調和が狂う結果、これらの免疫細胞が様々な臓器を障害し、発症する。治療法は副腎皮質ステロイド剤が主体であるが、繰り返し症状が再発して、有効な治療成績が得られていなかった。B細胞を破壊するB細胞上のCD20蛋白を攻撃するリツキシマブで良好な治療成績を得たとの症例報告もあるが、まとまった臨床試験のデータは無かった。
今回、B細胞の表面に発現している CD19 蛋白を攻撃するイネビリズマブを用いて IgG4関連疾患を治療した臨床試験の治療成績が報告された。1年の時点で極めて高い治療成績が認められたと報告されている。日本においても、この新薬が使えるようになる日が、直ぐに来るだろう。
Stone JH et al MITIGATE Trial Investigators. Inebilizumab for Treatment
of IgG4-Related Disease. N Engl J Med. 2025 Mar 27;392(12):1168-1177.
Spiera R. Beyond Glucocorticoids for IgG4-Related Disease. N Engl J Med.
2025 Mar 27;392(12):1232-1233.
(IgG4関連疾患は多くの臓器に症状を示すので、IgG4関連疾患センターのような専門機関で診察・治療を受けるのが最善であるが、そのような専門機関が無い場合、消化器内科やリウマチ内科(膠原病内科)あるいは血液内科などで診療している場合が多い)