一般的な疾患に関しては、多くの医師が採用している「標準治療」が存在する。多くの臨床試験(各治療法の成績の比較試験)の結果を総合して、その時点で「最も効果が高い」治療法が「標準治療」とされ、多くの医師に採用される。多くの医師が治療法を選択する際の参考とする治療ガイドラインに記載される場合も多い。しかし、治療薬・治療法の進歩と共に「標準治療」が大幅に変更されることがある。
若年の多発骨髄腫に対する治療は寛解導入療法と、その後の自己末梢血幹細胞移植の組み合わせが長い間「標準治療」とされて来た。
今回、自己末梢血幹細胞移植と新規薬剤による抗癌剤治療との比較試験を行った結果、同等の治療成績が出た。これにより、コストの掛かる自己末梢血幹細胞移植が標準治療から外されて行くだろう。医療者にとっても、患者にとっても、移植という大変な治療をする必要がなくなるので、大きな朗報である。(しかし、日本では残存骨髄腫細胞 MRD の検出法が異なり、感度も低いので、欧米と同じように評価することだ出来ない。この治療が標準治療に採用されるのは、日本では、まだ先の話になるかもしれない)
Perrot A et al. ; MIDAS Study Group. Measurable Residual Disease-Guided Therapy in Newly Diagnosed Myeloma. N Engl J Med. 2025 Jun 3.
現在、多発性骨髄腫の治療効果の判定は残存骨髄腫細胞 MRD 量で検定するのが標準化している(いわいる、サロゲート・マーカーである)。
寛解導入後にMRDが10-5(10万細胞に腫瘍細胞が1個未満)まで改善した症例を、幹細胞移植を受ける群と化学療法を6回繰り返す群に分けて比較した所、MRDが10-6(100万細胞に腫瘍細胞が1個未満)に低下する例数が同等(86%と84%)であった。これは移植と6回の化学療法が同じ効果を示したことになる。6回の化学療法を行えば、移植をする必要が無いことを意味する。
世界では、多発性骨髄腫の標準治療が大幅に変化する。