【学会参加報告】2024年 アメリカ癌研究学会(AACR)


アメリカ癌研究学会 (AACR: American Association of Cancer Research) 総会 が2024年4月5日から10日までカリフォルニア州サン・ディエゴ市で開催されました。 米国だけでなく世界中の癌研究に関わる医療者・研究者が集まる世界最大級の国際学会でした。当日は医学や生物学だけでなく人工知能(AI)研究の科学者も多数参加し(Computer Biologyという新しい分野)癌研究が新し扉を開いたことを実感できました。

 10年前に癌細胞の全ゲノム解析が一般診療の中に取り入れら、その膨大なデータ(ビッグ・データ)の解析に長い間苦労してきた癌研究者はAIの登場により、その有効利用が可能になり、研究は急激に進んでいました。ゲノム・データ・遺伝子発現データ・患者の治療への感受性データ・予後データなどを全て組み込み、瞬時に、各患者に最適な治療薬の組み合わせを解析すことが可能になってきました。癌の治療成績は、更に飛躍的に伸びることが期待できそうだと思われました。


 世界の IT 研究・技術を牽引するアメリカと韓国からの 企業と大学の共同研究が多数発表されていました。勿論、研究大国の中国からの発表も多数ありました。それに比べて、シンガポールと日本に、一時の活気が無いのが残念でした。

 栄誉ある学会賞であるOutstanding Achievement in Blood Cancer Research 賞(血液癌研究において顕著な業績を残した方に贈られる賞)がカリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) の Owen N. Witte 教授に贈られました。

 Witte (ウィッテ) 先生はマサチューセッツ工科大学のボルチモア教授(現・カリフォルニア工科大・教授、1975年ノーベル賞受賞)の下で、世界で初めてチロシン・リン酸化酵素 Ableson (エーブルソン)を発見した方です。

 当時は、セリン・スレオニン残基のリン酸化酵素が癌化に重要な役割を果たしているとされていた中で、SRC(サーㇰ)リン酸化酵素と同様にチロシン残基のリン酸化の重要性を報告しました。

 その後、慢性骨髄性白血病の細胞株では、分子量の大きな異常なエーブルソンが発現していることを発見し、これが慢性骨髄性白血病の原因蛋白である BCR-ABL 異常チロシン・リン酸化酵素であることを発見しました。この発見は、その後の慢性骨髄性白血病の治療薬イマチニブの開発の基礎となりました。

 更に、X染色体由来の無ガンマグロブリン血症(ブルトン型無ガンマグロブリン血症)という先天的な免疫不全の原因が、BTK チロシン・リン酸化酵素の異常であることを発見しました。このBTK は慢性リンパ性白血病の治療標的として非常に重要な蛋白であることが分かり、その後開発されたBTK阻害剤は、今では白血病治療には欠かせない薬剤になっています。

 コロナ禍が収まり、中国からの参加者も多数ありました。そんな中、川又教授と共にUCLA で癌研究に取り組まれていた中山大学(英語表記 Sun Yat-sen 大学/ 中国民主化の父・孫文氏の名前に由来する大学名。台湾の National Sun Yat-sen 大学とは関係が無い)のイン教授も参加されていました。

 

Bioinformatics や Computer Biology など人工知能(AI) の発表も多数。

学会賞を受賞されたウィッテ教授。中山大(Sun Yat-sen大)イン教授と川又教授。

2024年04月22日