アメリカのオリンピック放送

多くの人が知っている通り、1984年のロサンゼルス・オリンピックを境に、オリンピックの形態が大きく変化した。

それ以前は、オリンピックは「万人の物」であり、全ての放送局が自由にオリンピック競技を報道でき、各新聞社や雑誌社が、自由にオリンピック競技の写真を使うことが出来た。

また、出場者もアマチュアに限られ、プロ選手の参加は認められていなかった。テニスやバスケット・ホッケーといったプロ・スポーツ化していた競技には、オリンピックではプロ選手は参加せず、アマチュアのトップ選手が参加していた。

競技において、勝つことにばかり執着する選手を戒める「オリンピックは参加することに意義がある」という言葉をクーベルタン男爵が残したのも、商業化される前の「万人のためのオリンピック」を指してのことである。

テレビで目にする有名プロ選手でなく、見たことも無いアマチュア選手が出ているオリンピックは、一般大衆の興味を引くことが出来ず、運営は赤字続きであり、多くの国が開催を躊躇する状況になっていった。そんな中、アメリカが「オリンピックの商業化」を打ち出し、ロサンゼルス・オリンピックを行った。

「報道」の名の下に、全てのテレビ局・新聞社・雑誌社が自由に報道していたものを、「お金を払った者だけがオリンピックの詳細を伝えることが出来る」という「オリンピックの商品化」が行われ、オリンピック競技は「商品」に変わった。お金を払わず「報道」することが許されるのは、試合結果と、僅かな映像のみになった。

「オリンピック」という言葉を使えるのも、オリンピック協会に料金を支払った一部の企業のみで、以前のように、誰でも「オリンピック」という言葉や、「オリンピックのロゴ」を使うことが出来なくなった。

全てが、一部の企業・会社による独占状態であり、「購入」出来なかった者・会社は完全に排除されている。「万人のオリンピック」から「商品購入した者のためだけのオリンピック」に変わってしまった。

商業化されたオリンピックにとって「視聴率」を稼ぐことは最大の使命になった。このため、プロ選手のオリンピックへの参加が解禁され、テニスなどは4大大会に並ぶ大きな大会として位置づけられ、人気選手が揃って出場している。観戦チケットも4大大会と変わらない高価なものとなってしまった。

オリンピックの放送権は各国に於いて、その国のテレビ放送局間での入札により、一番高額な放送料を付けた一社のみが獲得する仕組みである。アメリカでは、オリンピックの放送権はNBCテレビが購入したので、NBCだけが競技の報道をしたり、オリンピックの特集番組を組んだりして報道している。しかし、他の巨大テレビ局 CBS, ABC, FOX は、スポーツ・ニュースで1分程度、試合結果を簡潔に報道する程度で、まったくオリンピックには触れない。

テレビのチャンネルを変えても、他のテレビ局はオリンピックを完全無視である。

アメリカ国民の中には、スポーツに興味のない人は多いし、多くのチャンネルはオリンピックには一切触れないので、(アメリカ代表選手が沢山のメダルを獲っているのに)アメリカ国民の中で、オリンピックを、まったく見ない人も多い。

ちなみに、オリンピックの放映権は、巨大テレビ局にとっては、それほど高額なものでは無いので(オリンピック委員会の指示通り)各国において各テレビ局が入札を行い最高額を付けた1社のテレビ局がオリンピック放送権を購入して、その局だけがオリンピックを報道するのが先進国では一般的である。

日本はオリンピック放送権に対する入札を行わず、全ての放送局による共同購入が行われる。商業主義オリンピックに移行しても全放送局がオリンピック競技を報道するという、先進国としては極めて例外的な国である。同様の体制を敷いていた韓国も2026年からは一社の独占に移行する。

2024年07月22日