アメリカの刑事司法制度 (American criminal justice system)


それぞれの国の医療制度は、その国の文化や宗教・価値観に基づき形成されて来たものであり、それぞれの国で違いがある。しかし、未だに「完璧な医療制度」は、どこの国にも存在しない。各国は、少しでも良い医療制度にしようと、常に改革を続け・努力を続けている。どの国の制度にも良い部分もあれば悪い(不完全な)部分もある。だから「あの国の医療制度は劣っている」と他国を蔑むことは必ずしも正しくない。

医療制度と同様に、司法制度、特に犯罪(刑事)司法制度(Criminal Justice System) も、それぞれの国の文化・宗教・価値観を取り入れて形成されて来た制度であるから、国によって異なる。こちらも、また、「完璧な犯罪司法制度」は存在しない。そのため、その国の国民から自国の犯罪司法制度で出された評決に関して不満が口にされることがある。

法には、大陸法(Civil law)と英米法(Common law)という、性質の大きく異なる2種の法体系がある。アメリカでは英米法(Common law) に基づき犯罪司法制度が成長してきた。一方、日本は明治維新の頃にドイツの制度(大陸法)の影響を強く受けながら司法制度を確立して来た経緯から大陸法(Civil law)による犯罪司法制度の色合いが強い。この大きな法制度の違いのため、日本人がアメリカの裁判を見た時に奇異に感じることがあるかもしれない。

アメリカ人の中には、自国の英米法(Common law)に基づく犯罪司法制度に批判的な人もおり、日本を始めとする大陸法(Civil law)による犯罪司法制度にするべきだと強く訴える人もいる。が、アメリカは、その建国の歴史に根差した英米法に基づく犯罪司法制度を維持している。

アメリカにおいても、日本においても、軽犯罪に関する裁判は、裁判官裁判である。検事が証拠を提示し、「被告(容疑者)が犯人であり、有罪である」ことを訴え、それに対してて被告の弁護人が反証する。そして、その遣り取りを聞いて、裁判官が有罪・無罪の判定をする。

日本を含めて、大陸法による犯罪司法制度の国においては、重犯罪に関しても裁判官あるいは一般市民が裁判官と共に裁判に当たる参審制であるが、英米法に根差しているアメリカにおいては重犯罪は陪審員裁判(裁判官は評議に参加しない)が基本である。

アメリカの場合、一般市民の中から12人の陪審員が選ばれ、彼ら・彼女らが、検事と弁護士の遣り取りを聞き、彼ら・彼女らの合議で有罪・無罪が確定する。判定は12人全員が一致した意見のみ採用される。陪審員の判定は有罪・無罪のみであり、有罪の場合の刑罰の重さ(量刑)については、裁判官に一任され、陪審員は関与しない。

陪審員は、その裁判が行われている裁判所のある街の運転免許センター(免許センターは、運転免許を持っていない人には公式IDカードを発行しているので、街の「住民登録所(日本の区役所・市役所)」の役割を果たしている)に登録されている成人市民の中から無作為に選ばれる。性別・年齢・人種・職業・学歴がバラバラな12人が選ばれるが、その街の住民の特性を反映する。黒人が多い地域ならば、陪審員に黒人が多くなるし、低所得者・低学歴居住者が多い地域ならば、陪審員に、そのような人が多くなる。(全ての住人が3-4年に1度の頻度で陪審員としての招集を受ける)

どのような陪審員が選ばれるかは、少なからず、判決に影響する。高学歴・高収入の人が多く住む地域での裁判と、低学歴・低収入の人が多く住む地域では、同じ裁判でも、その結果が違ってくる可能性がある。なので、どこで裁判が行われるかで判決に違いが出てくる可能性がある。(日本の場合は、「警察」が捜査をして証拠を集め、有罪を立証するに十分と判断すると「検察」に送致する。「検察」が証拠が十分と考えて「裁判所」に送る(起訴)すると、裁判では99%の確率で有罪になる)

同じ裁判なのに、裁判が行われる場所や、陪審員の構成によって判決が異なるのは「不公平」として、この陪審員裁判に否定的はアメリカ人は存在する。どこの裁判所でも、高い法律の知識を持った裁判官が評議・評決に加わる大陸法による犯罪司法制度の方が正しいと思っているアメリカ人も少なからずいる。

1991年の、ロサンゼルス暴動の契機となった「ロドニーキング氏殴打事件」は、複数の白人警官が、スピード違反で拘束されたキング氏を警棒で激しく殴打して重傷を負わせた一部始終を捉えたビデオが一般市民から提供されたが、全ての白人警官が無罪になった。

また1995年の「OJシンプソン氏元妻殺害事件」は、黒人の元人気スポーツ選手・俳優の OJ シンプソン氏が被告(容疑者)となったため、全米から注目を集め「世紀の裁判」と呼ばれ、 8ヶ月もの長きに渡り行われた。OJシンプソン氏の、離婚前の、白人の妻への繰り返す激しい家庭内暴力の事実や、多くの物的証拠や目撃証言があるにも関わらず、OJシンプソン氏は、評決の結果、無罪となった。(この裁判は、検察が「十分な証拠がある」と絶対の自信を持って、敢えて、黒人住民の多いロサンゼルスのダウンタウン地区の裁判所で裁判が行われた、と言われている)

アメリカの刑事裁判では「無罪」となった場合は、検察は控訴はしないので、一審での判決が最終判断となる。これらの刑事裁判は「無罪」で結審した。これらの「不可思議な判決」に対して、アメリカ市民は激しい怒りと不信感を露にしたが、アメリカ大統領は「アメリカの犯罪司法制度(American criminal Justice System) を支持する」と表明した。

日本においても、一般人が納得できない評決が出たり、起訴された場合の有罪率が99%と異常な高値であること、結審するまで数年ー十数年という時間が掛かることに不満を持つ人もいる。その点では、日本の犯罪司法制度も又、完璧とは言えない。

アメリカでは、建国以来の「一般市民の意見に基づき物事を決める」という価値観の下、批判もあるが、今でも、一般市民から選ばれた陪審員による裁判が尊重されている。

2024年05月22日