アメリカの政府と価値観


アメリカの政治は、保守の共和党と革新の民主党に二分される。この二党の間で、その価値観は大きく異なる。なので、どの政党から大統領が出るのか?どの政党が議会で優位を占めているか?で国の方向性もコロコロと変化する。

 ドナルド・トランプが大統領を務めた2016年ころからアメリカは保守化の傾向を強くしている(だから、保守のドナルドが大統領に選ばれたという側面もある)。

アメリカは根本的な価値観さえも、政権の行方で、大きく変化する。

妊娠中絶は女性の権利として長い間、全米で広く認められてきたが、2016年ころから、多くの保守的な州で、新たな州法を可決して、妊娠中絶を禁止している。禁止をする州は次々と増えている。

古いキリスト教の価値観においては、妊娠中絶は胎児の命を奪う悪の行為であるとされている。紀元前に活躍した医聖・ヒポクラテスも、その「ヒポクラテスの誓い」の中で「医師は中絶を行ってはいけない」と明確に記載しているように、太古には妊娠中絶は悪とされていた。

アメリカでは保守的な勢力が増え、古い価値観が復権して、近代・現代に確立してきた価値観・基準が否定されつつある。

妊娠中絶が違法とされれば、怪しげな施設で、秘密裏に妊娠中絶をする人が増えてくる。そのことは、患者の健康を危険に曝すことになる、と憤る医療者は多い。

古い価値観の復権は性的マイノリティーLGBTQにも大きな脅威になっている。多くの保守的な(共和党の強い)州でLGBTQ のホルモン治療や性転換手術(Gender- affirming care 性別適合ケア)を禁止し始めている。

古いキリスト教的な価値観は中絶を否定し・LGBTQを否定する。革新的な価値観は、これらを受け入れる。アメリカにおいては、この二つの価値観が拮抗しており、現在は古い価値観が大勢を占めようとしている。中絶の権利やLGBTQの権利は天から降ってきた、誰もが黙って納得する根源的な権利では無い。これらの権利を守るためには、社会への継続的な働き掛けが必要である。

Ulrich MR. Practicing Medicine in the Culture Wars - Gender-Affirming Care and the Battles over Clinician Autonomy. N Engl J Med. 2024 Feb 29;390(9):779-781.
 

2024年03月11日