コロナ禍が医療に残した爪痕/ whatever it takes.


2019年に始まり世界中を覆いつくした新型コロナウイルス COVID-19 によるパンデミック(コロナ禍)は世界全体に大きな損害を与えた。

高齢者を中心に、呼吸不全で多くの患者が命を落とし、感染の伝番を抑えるために自宅での生活を余儀なくされ、多くの飲食店が休業することを強要された。このため経済活動が停滞し、多くの人が職を失い、飲食店を中心に多くの店が閉店を余儀なくされた。

経済活動・貨幣の流通の活性化を目的とした巨額の補助金・給付金の市民への支給は急激な物価の上昇(インフレ)を引き起こした。貨幣の流通の急激な増加は「持てる者」と「持たざる者」の格差を拡大し、貧困層の急激な増加・ホームレスの大量発生という社会的大災害(Social Crisis) を引き起こし、街の治安は加速度的に悪くなって行った。

人々の不満は、白人警官による黒人男性への暴力ならびにその後の死を発火点として、全米で Black Lives Matter (ブラック・ライブズ・マター)運動という形で爆発した。多くの都市で暴動・放火・略奪が起こり、全米を混沌の中に引きづり落とした。

今も、激しいインフレ・大量のホームレス・治安の悪化・貧富の差の拡大が加速している。こんな中、保守的な思考が全米を支配し始め、移民排除や女性の権利の剥奪など、160年前の白人優位・男性優位のアメリカを懐かしむかのような人々が増える異常な事態がアメリカでは起きている。

コロナ禍を契機としたアメリカの混乱は医療の世界にも大きな爪痕を残し、アメリカの医療体制を根幹から揺るがせている。

コロナ禍の中、その異常な診療数に疲弊した医療者達が、若手を中心に次々と自ら命を絶ち、あるいは職場を放棄して、医療の最前線で病と闘うことを辞めて行っていた。鬱病を中心とした精神疾患を患う若手医療者が急激に増えた。

この背景に①医療者になるための過酷で長いトレー二ング期間 ②若い医療者が「鬱病は心の弱い者の病」という偏見を恐れ、自身の不安定な精神状態に対して助けを求める声を上げられない医療現場の閉鎖性 ③若い医療者の将来を左右する大きな力を持つ上司である医師達と若手医療者達の「歪んだ力関係」 が大きな圧力となって若手医療者の精神を蝕んでいった。

コロナ禍は、その過酷なトレーニング・厳しい職場/労働環境・歪んだ人間関係を 辛うじて耐え忍んで一人前になることで抜け出していた若手医療者達を、一気に押し潰してしまう大きな圧力になった。

 治療法も分からず、致死性の高いウイルスに、防護服を着て、長時間に渡って、止めどなく押し寄せる多くの患者を、「医療者の使命だ」という理不尽な声に押されて、休みなく診療することを強要され続ける若手医療者達の精神が、それほど時間が掛かることなく、根底から破壊されてしまうのは容易に想像が付いた。

 現在、アメリカでは多くの若い医療者が心を病み、重責を担う困難な診療を避け、医療現場からさえ離れて行ってしまっている。

医療者が精神を病んで職場を放棄したなら、新たな医療者を作れば良い、、、という、医療者の自死や燃え尽きの根源を断ち切らずに、次々と新しい医療者を作ることは、同時に大量の「犠牲者」を生み出すことであり、問題の解決どころか、問題の拡大になる。

 アメリカは、医療者の学生教育・トレーニングシステムの見直し、若手医療者の精神状態のケア、更には、職場における、いびつな上司との力関係の改善など、多くの改革をして、若手の医療者が健全な心で、上司からの圧力や恐怖を感じることなく、生き生きと成長できる・自由に職場を選べる環境を整える必要がある。

 コロナ禍はアメリカの医療の姿を根底から変えてしまった。決してコロナ禍前の姿に戻ることは無い。アメリカは全力を掛けて、この混乱を修正しなければならない。時として、それは「一から作り直す」ことかもしれない。アメリカは、若手医療者が心を病み、次々と去って行き、粉々になってしまった医療体制を、何を置いても(whatever it takes) 立て直さなければならない。

 ジョー・バイデン大統領の下、コロナ禍の中、過酷な職務によって心を病み自ら命を絶った優秀な若手救命救急医 Dr. Lorna Breen 医師の名を冠した法案「Dr. Lorna Breen Health Care Provider Protection Act」が成立した。アメリカでは若い医療者を救う方策を捜し始めている。これによって多くの若手医療者が救われることが望まれる。

アメリカは何を置いても(whatever it takes) 医療系学生・若手医療者を守る必要がある。

Dr. Lorna Breen Heroes’ Foundation
https://www.youtube.com/watch?v=RK4hBcB6hvU

2024年04月24日