PCR産物のサブクローニング/ベクターへの挿入


PCR産物は直線状の二本鎖 DNA なので、とても不安定です。そこで環状(Circular) のベクターに組み込んでおくと安定化して、長期保存も可能ですし、バクテリア内での増幅も容易です。

 

PCRは20ヌクレオチド程度の合成DNA配列をプライマーとしてDNA配列を増幅する方法ですが、このヌクレオチドの5’末端はリン酸化されていません(-OHになっています)。

通常の Taq ポリメラーゼで PCR 法を行うと、3'末端にアデニン(A) が付加されます。3'末端にAが飛び出た形になります。この PCR 産物が効率的にベクターに取り込むために、各メーカーは A と相補的なチミン(T) が5’側へ飛び出したベクターを売り出しています。これらのベクターを使うと Taq ポリメラーゼで作られた PCR 産物は高効率でベクターに挿入(サブクローニング)出来ます。この方法をチミン(T) とアデニン(A) を使ったクローニングなので、TAクローニングと呼びます。また、TAクローニングに使う市販されているTが飛び出したベクターを TAベクターと呼びます。


PCR法に使うポリメラーゼの中には、DNA の読み間違いを修正してくるれ活性(Proof-reading 活性)を持ったポリメラーゼもあります(Pfu ポリメラーゼなど)。これは「完璧に間違いの無い DNA 配列が必要だ」という時には大変役に立ちます(Taqポリメラーゼは間違いが多い酵素です)。これらのProof-reading 活性のあるポリメラーゼで作られた PCR産物は、上記のような A の飛び出しはありません。その産物の末端は、平坦です。これをブラント・エンド(Blunt-end) と言います。ブラント・エンドのPCR産物には、TAクローニングは使えません。

このような時には、ベクターの方も、断端が平らなブラント・エンド・ベクターを使わなければなりません。しかし、断端が平坦だと、(PCR産物を取り込まないで)ベクターの断端同士が結合して輪を作ってしまう(セルフ・ライゲーション self-ligation) 可能性が極めて高くなってしまいます。そこで、セルフ・ライゲーションが起こらないように、ベクターの断端のリン酸を除去します(脱リン酸化・dephosphorylation)。これだと、断端にリン酸が無いのでセルフ・ライゲーションが出来なくなります。

しかし、上に書いたように、PCR産物を作るプライマーも5’にリン酸が無いヌクレオチドなので、このままでは PCR産物もベクターと結合できません。

そこで、PCR産物をリン酸化して、5’にリン酸を付加します。こうすればベクターと結合するようになります。そして、ベクター自身はセルフ・ライゲーションしません。


これ以外に、ブラント・エンドの PCR 産物の 3' 末端にアデニン(A) を付加することも出来ます。こうすれば Taq ポリメラーゼで作った PCR 産物と同じになるので TA クローニング法が使えます。

Proof-reading 活性のあるポリメラーゼで作ったPCR産物をサブクローニングするには、Taq ポリメラーゼで作ったPCR産物の時よりも、少し手間が掛かります。

2023年06月30日