2023年10月の日本血液学会で、慢性リンパ性白血病 (CLL) の治療の大家であるイタリアのギア(Paolo Ghia) 先生が御講演されました。CLL はヨーロッパやアメリカでは大変頻度の高い病気ですが、日本を含めたアジアの国々では大変稀な病気です。ですのでヨーロッパやアメリカの国々が検査や治療の開発をリードしています。
CLL は、無治療でも極めてゆっくりしか進行しないタイプのものから、強力な抗がん剤治療をしても無効で、急激に進行してしまって、同種移植のような治療を必要とするタイプのものまで、一つの疾患なのに様々なタイプがあります。
CLLの病気の進行のスピードや治療への抵抗性を推測するには、免疫グロブリン遺伝子の点突然変異と、TP53遺伝子の点突然変異を調べることは大変有用です。免疫グロブリン遺伝子の点突然変異が多いものは、ゆっくり進行するタイプであり、TP53遺伝子の点突然変異があるタイプは、標準的な化学療法に抵抗を示すものです。
ヨーロッパやアメリカでは、この二つの遺伝子変異を調べることは15年前からCLLにおいて標準診療の一部でした。これらの検査をしなければ、正しい治療法の選択が出来ず、CLL診療を正しく行えないことなってしまうからです。(日本では、未だに、この二つの検査は出来ません)
ところが、CLLに対する新しい治療薬 BTK阻害剤が登場し、状況は一変したそうです。BTK阻害剤は、副作用が少なく、どんな遺伝子タイプの CLL に対しても極めて高い有効性を示すので、上記のような2種の検査をする必要性が無くなってしまったそうです。アメリカでは、ついに、長年行ってきた、上記の二つの検査を行うのを取りやめたそうです。
日本では、これらの2種の検査を行っている施設は無く、、、いつのまにかアメリカのような最先端のスタイルになっていたようです。何とも複雑な心境です。