血友病A は先天的に凝固因子の一つである第8因子が欠損している病気である。ヒトには出血した時に血を止めるため、凝固因子という沢山の種類の蛋白質が必要である。この凝固因子のうち第8因子が欠損していると、繰り返し出血を起こす。特に関節内で出血し、関節の動きを悪くしてしまう。
血友病は男性の病気で、出生後から症状が出る。欠損している第8因子を定期的に点滴で補充する必要がある。
多くの凝固因子は肝臓で合成されている。欠損している第8因子の遺伝子を肝臓の細胞に導入する遺伝子治療が試みられてきたが、あまり上手く行っていなかった。
肝臓が成熟するまで治療は始められないし、ウイルスを注射するので、副作用も多い。ウイルスに対する抵抗力を持った人は治療が効かない。肝臓の代わりに筋肉に遺伝子導入して、筋肉に凝固因子を作らせようとしたが、これも、あまり上手く行かなかった。
最近、第8因子の遺伝子を造血幹細胞に導入し、遺伝子修正された造血幹細胞を体に戻すことでで血友病A を治す試み(遺伝子治療)が成された。
造血幹細胞を用いた遺伝子治療は貧血疾患(地中海貧血や鎌状赤血球症)で高い・安定した効果が確認されている確立した方法論である。しかし、もともと第8因子は肝臓で作られる蛋白であるから、造血幹細胞に第8因子遺伝子を導入して、無理やり、血液の細胞に第8因子を作らせて大丈夫かどうか危惧された。
今回、造血幹細胞が単球・マクロファージ系に分化した時に第8因子を作るようにデザインした遺伝子治療を行った。すると、極めて高い・安定した第8因子の産生が行われ、患者は第8因子の注射を止めても出血をすることが無かった。
今回の方法は様々な疾患の遺伝子治療・細胞療法に応用できそうである。
Srivastava A et al. Lentiviral Gene Therapy with CD34+ Hematopoietic Cells for Hemophilia A. N Engl J Med. 2025 Jan 30;392(5):450-457.