抗癌剤治療を受けている、あるいは受けた患者はインフルエンザ・ウイルスに感染すると重症化し、時には命を落とすことがある。このような患者はハイリスク患者とされる。
インフルエンザ・ウイルス感染症の重症化の予防にはワクチン接種が有効であるが、癌患者の場合、ワクチン接種は、どの程度有効なのか、打つことによって「抵抗力」が上がるのかどうか、疑問が持たれるところである。
ウイルス感染症への「抵抗力」はT細胞を主体とした「細胞性免疫」とB細胞が分泌する抗体による「液性免疫」から構成される。特に抗体による「液性免疫」が「抵抗力」の主体である。ワクチン接種後にウイルスに対する抗体が形成され、ウイルスが侵入(感染)しても、即座に抗体がウイルスを無力化して除去することで重症化を抑えてくれる。
癌の中でも免疫を司るB細胞に由来する血液疾患の場合、このB細胞を破壊する抗癌剤治療が行われる。このようなB細胞系の血液疾患患者の場合、インフルエンザ・ワクチンの接種が有効なのかどうか、極めて疑問が残る。あるいはB細胞が破壊されているから抗体の上昇が見られないのかもしれない。あるいはワクチン接種は無効かもしれない。
Hall らは、B細胞系の血液疾患である多発性骨髄腫・慢性リンパ性白血病・悪性リンパ腫の患者にワクチンを接種し、その抗体の上昇の有無を検討した。
Hall VG et al. Influenza Vaccination Strategies in Patients with Hematologic Cancer. N Engl J Med 2025;392:306-308.
多発性骨髄腫患者では、健常者ほどの高い頻度では無いが、多くの患者で抗体価の十分な上昇が見られた。抵抗力が増強されたことが示唆された。
一方、慢性リンパ性白血病・悪性リンパ腫患者では、抗体価の上昇は少数の患者でした見られなかった。多くの患者では抵抗力が付いていないことが示唆された。
多発性骨髄腫の患者はプロテアソーム阻害剤・サリドマイド系薬剤・ステロイド剤で治療されている。一方、慢性リンパ性白血病患者はBTKチロシンキナーゼ阻害剤で治療されている。悪性リンパ腫の患者の多くが抗CD20抗体やアルキル化剤・ビンカアルカロイド系・アントラサイクリン系の抗がん剤で治療されている。それぞれの治療薬の種類により、ワクチンへの反応性に差が出るものと考えられる。
慢性リンパ性白血病患者や悪性リンパ腫患者の場合、ワクチンを接種していても、抵抗力が付いていない例が多いので、インフルエンザ・ウイルス感染症を疑ったなら(高熱が見られたら)迅速な対応が必要であるだろう。