ヘモグロビン・鎌状赤血球とベータ地中海貧血


赤血球の中には酸素を運ぶヘモグロビン (Hb) と言う蛋白がある。大人の場合、これは2個のアルファ・グロビンと2個のベータ・グロビンの4つの蛋白が結合した蛋白(Hb-A が主体)である。

このうち、ベータ・グロビンに点突然変異があると、ヘモグロビン自体が変形する。アフリカ系住民に多い鎌状赤血球症(SCD) という病気は、ベータ・グロビンが全て変形しているので、棒状のヘモグロビン(Hb-S) が形成され、赤血球自体が鎌のような形になる。

この病気は、発作的に痛みが出る。関節が痛んだり、胸が痛んだり、人によって痛む場所が異なる。脾臓と言う臓器が障害を受け感染に掛かりやすくなる(昔は、このために5-6歳で感染症で死亡する子供が多かったが、今は、抗生剤の予防投与をするので死亡率は高くない)。また、血栓が、あちこちに出来る。肺高血圧になって若くして死亡する人が多い。日本人には無い病気である。

ベータ地中海貧血は地中海周囲で高頻度にみられる病気で、このベータ・グロビンが生まれつき無いために重度の貧血になる。生まれてから、ずっと4か月に一度、輸血が必要である。だんだん、他人の血液に抵抗性を示すようになり、自分に合う血液を見つけるのが大変になる。この病気は中国南部のアジア系住民にも見られるので、稀ではあるが、日本でも見られることがある。

どちらもベータ・グロビンというヘモグロビンの一部に異常が起きることによって出る病気である。

人間の大人の体中にはガンマ・グロビンというベータ・グロビンと、ほぼ同じ形の蛋白を作る遺伝子が「眠って」いる。ガンマ・グロビンは、人間が胎児の時(母親の子宮の中にいる間)は体で作られている。胎児の時のヘモグロビンは2個のアルファ・グロビンと2個のガンマ・グロビンで出来ている。これを胎児性ヘモグロビン(Hb-F) と呼ぶ。だから、鎌状赤血球症の人もベータ地中海貧血の人も、子宮の中では問題なく成長できる。ところが、出生すると(生まれると)急に、ガンマ・グロビンが眠ってしまう。そのため、ベータ・グロビンに異常があると症状が出る。

多くの研究者や医師が「眠っているガンマ・グロビン」を呼び覚ます薬・治療法の研究をしている。

 

健常人のヘモグロビン(Hb) の成分 
  Hb-A 96.4-98.8%,  Hb-A2 1.8-3.2%,  Hb-F 0-2%, Hb-S 0%
   大部分が Hb-A, 少量の Hb-A2 と Hb-F, 鎌状赤血球の原因の Hb-S はゼロ

Hb-A2: 2個のアルファ・グロビンと2個のデルタ・グロビンからなる。少量存在する。


2024年05月09日