医療者間の意志の疎通法/医療事故を避けるために。


医療の現場で事故が起きる原因:
1)人間の記憶の容量には限界がある。過剰に記憶することは不可能である。
  記憶したと思って、あるいは忘れて、事故が起こる。
2)気を散らすものや過労は医療行為の質を低下させ、事故が起こる。
3)一度に複数の作業を受け持つのにも限界がある。過剰な種類の作業を受け
  持つと事故が起きる。

それを防ぐためには多くの人員で医療に当たる必要がある。多職種によるチーム医療
が望ましい。

多職種チーム医療においては、各人の意志の疎通が事故の予防に重要である。

意志の疎通をする時に4つの要素が重要である。
1)What 何を伝えるか? どのような情報を伝えるか?
2)How どのようにして意志を疎通させるか?(口頭で?あるいは書面で?)
3)Why 何故、意志の疎通が重要か?どうして情報を伝えなければならないのか?
4)Who 誰と意志を疎通させるか?誰に情報を伝えるか?

毎日、いろいろな形で、医療者は意志の疎通をする。
1)書面による意志の疎通:書面は、まとまって、簡潔であることが重要である。
  そうでないと間違った疎通の元となる。
2)言葉による意志の疎通
3)非言語的(ノン・バーバル)コミュニケーション 
  1)表情(笑顔・無表情・怒り・不快感を表す表情など)
  2)声のトーン(高い声・低い声)
  3)身振り・手振り
  4)アイ・コンタクト(視線を合わせる)

最も効率的で確実な意志の疎通は対面で、口頭での意志の疎通である。
特に、対面で、口頭での意志の疎通は、心配な点がある時や、意見や見通し
が医療者の間で一致しない場合に最も有効な意志の疎通手段である。

意志の疎通を妨げる因子として
各医療人の中にある
1)言葉の違い(外国人と意志の疎通をする時)
2)文化の違い(「沈黙は金」とする文化では、黙っていることが求められ、
        言葉での意志の疎通が困難)
3)見通しの違い(状況を楽観的に捉える人と悲観的に捉える人で、その受け取り方
         の真剣さに差が出て、意志の疎通が成立していない場合がある)
4)過去の体験の違い(同じ状況でも、簡単に解決した様子を繰り返し体験している
           人、悲惨な結末になった様子を何度も体験している人では、
           見通しに違いが出て、意志の疎通が出来ていないことがある)
外的な要因
1)騒音(騒音で聞こえない)
2)会話をしている時の第三者や外部からの話掛け・騒音などの集中を妨げるもの

一方向の意志の疎通は誤解・情報の伝達の不完全さの原因になる。一方向の伝達は
送る側にとっては迅速に行えて便利であるが、情報の受け手側は、見過ごしの原因に
なるので、良い方法とは言えない。

二方向の意志の疎通は、情報の送り手と受け手が、対面で、口頭で行い、質問を
したり、それへの回答をすることで、お互いが言葉のキャッチボールをすることで、
誤解が解消し、情報の伝達が確実になる。
 この際、質問する時には 5W1H(What Why Who Where When How)
などを尋ねるオープン・クエスチョンが良い。イエス・ノーで答えるクローズド・
クエスチョンで答える質問をすることは、良く考えずに安易にイエス・ノーで答えて
しまうことがあり、間違った情報の伝達や誤解の元となるので避けた方が良い。

医療現場においては、職種の上下があるので、職種の低い者は声を上げにくい環境に
ある。気付いた問題点に、職種が低いことや、年齢が若いことで、躊躇して声を上げ
なかったことが、本来、早期に対応すれば防げた事故を、防げなかったことになる
ので、職種の低い者・年齢の若い者は、「声を上げる」方法=PACE (下記)を習得
しておく必要がある。

PACE(ペース)
段階的な忠告喚起 P A C E の順に注意を喚起して行く。
決して、いきなり E を行わない。
Probe (静かな声で 心配事を伝える)
Alert (少し声のトーンを上げて 注意が必要なことを伝える)
Challenge (しっかりした声で トラブルが起きている可能性を伝える)
Emergency (大きな声で トラブルに対処するために、どうするべきと考えるか
       を伝える)

引き継ぎカンファレンス/ サイン・アウト・カンファレンス/
           ハンド・オーバー・カンファレンス
1)決まった時間に、公式の会合として行う。情報を送る側と受け取る側が、
  全員、必ず集まる。
2)十分な時間を掛けてコミュニケーションする。
3)注意がそらされる様な邪魔が入らないようにする。
4)司会が会合の進行を取り仕切る。
3)特に重症者の治療方針・対処計画を明瞭に伝える。
5)SBAR (下記)を用いて、情報を伝えることが有効である。

SBAR(エス・バー)
S Situation (現在の状況・問題点を説明する)
B Background (背景(臨床経過)を説明する )
A Assessment (自身の患者の問題点に関する解釈を説明する)
R Recommendation (解決法を提案する)

意志の疎通に重要な事は
1)何をするべきか?何が為されるべきか?それを誰が行うべきかを明確に伝える。
2)お互いの名前を伝える。
3)相互に言葉を発して、質問し、それに答える。
4)タイミングを考える。直ぐに伝えるべきか?後で良いか? 
5)緊急時以外は、何かに集中している医療者の邪魔をするような事(話し掛けなど)
  はしない。
  気をそらすようなことをしない。
  集中して作業していない、他の者を探す。
6)患者が危険になると感じたら、声を上げる。注意喚起をする。
  決して相手を侮辱するような、乱暴な態度は取らない。多くは質問し、答えを
  考えてもらうことで解決する。
  誰かが声を上げようとしたら耳を傾ける習慣を付ける。

2024年04月25日