スポーツと飲み物


「昔は『スポーツ中は水を飲むな!』と言われて、それはそれはヒドい思いをした」と年配の方がテレビなどで語っていることがあります。多くの人がご存じの通り、現在は、スポーツ中に脱水にならないようにスポーツ飲料を飲むことは普通のことになっていますが、昔はスポーツ中に水分補給することは厳禁でした。

古くから、スポーツで汗をかくと運動能力が低下することが知られていました。この際に水(イオン成分を含まない水道水などの真水)を飲むと、更に運動能力が落ちることも広く知られた事実でした。極端な場合、多量の汗をかいた後に真水を飲むことで水中毒(みずちゅうどく)という病気になり、死亡することもありました。そのため、昔は、スポーツ中に水分を取らない方が「マシ」だとされて、スポーツ中の飲水は禁止されていました。

1960年代に、アメリカのフロリダ大学の研究チームが、スポーツ中に飲むことで、運動能力の低下を、なるべく落とさない飲み物(スポーツ飲料)の研究を始めました。フロリダ大学のアメリカン・フット・ボール・チーム(愛称:ゲーターズ(gators)。フロリダに多いワニ(アリゲーター alligator)から付けた愛称)の選手に様々な成分のスポーツ飲料を飲みながら運動をしてもらい、運動能力の低下の程度を比較しました。

運動時には多量の汗をかくので、水分だけでなく、ナトリウムやカリウムなどのイオン成分が汗と一緒に失われます。更に大量の糖が体内で消費されます。これらを補うことで、脱水を避け、イオン・バランスの変化を避けることが出来ると仮説を立て研究が行われました。その結果、運動能力の低下を最小限に抑える理想的な成分を発見できました。この理想的な成分のスポーツ飲料は、このフット・ボール・チームの名前を取ってゲーターレード(gatorade) という名前で商品化され、1970年代には、全米で、スポーツ中に飲む飲料として爆発的に普及し、現在でもアメリカで最も人気のあるスポーツ飲料になっています。

日本でも1970年代に、このスポーツ飲料が紹介されましたが、スポーツの現場で普及し、スポーツ中に飲むようになるのは、20年後の1990年代に入ってからでした。

スポーツ飲料に含まれるイオン成分の量は少量なので、下痢などの病気で脱水になっている時は、水中毒の危険があるので大量に摂ることは危険です。スポーツ飲料よりも経口補水液の方が病気による脱水の改善には有効だとされていますが、改善が無い時は病院で診察を受け・適切な治療を受けましょう。

*病院で、入院や外来で行われる点滴には、人体が1日に必要とするイオン量や水分量から設計された「維持輸液」や、血液の組成に近い「リンゲル液・生理食塩水」、高カロリーの栄養補給を目的とした、中心静脈から点滴する「高カロリー輸液」など、様々な点滴用の液体製剤があります。高濃度で点滴すると人体に障害を引き起こすブドウ糖製剤やカリウム製剤、一日投与量が過剰になると障害につながるナトリウム製剤などの注射液もあります。医師が、患者の状況を判断し、それぞれ用途に合わせて正しく使い分けて点滴が行われます。

2024年04月04日