自己免疫疾患に対するCAR-T細胞療法


 慢性関節リウマチは自身の関節が徐々に破壊されて行く病気である。人間が外界から侵入する細菌やウイルスを排除するために持っている「免疫」機能が暴走して、自分自身を攻撃してしまう病気である。日本では、患者の皮膚に異常が見られ、皮膚の下の膠原繊維に異常が出る病気と誤解され、古くから「膠原病」という総称で呼ばれているが、欧米では「自己免疫疾患」という呼び方になっている(ちなみに、膠原繊維に異常を持った病気(主に皮膚疾患)は他に存在する) 

この自己免疫疾患は、慢性関節リウマチ以外にも多数の疾患が存在する。全身の臓器を攻撃する全身性エリテマトーデス(SLE と略称で呼ばれる。人気歌手のセリーナ・ゴメスが発症したことで世界的に有名になった)、全身の皮膚が硬くなる強皮症、筋肉・皮膚に炎症が起きる皮膚筋炎、涙腺や唾液腺が障害され涙や唾液が出なくなるシェーグレン症候群(人気テニス・プレーヤーのビーナス・ウィリアムズが発症して世界的に有名になった)などなど、様々な疾患がある。

 医学の進歩により治療成果は大変良くなっているが、様々な治療をしても改善しない自己免疫疾患もある。このような難治性の自己免疫疾患に対して、白血病やリンパ腫の治療に用いられる CD19-CAR-T 細胞療法を行ったところ目覚ましい改善が見られたとの報告が2024年2月にドイツからあった。

 今までも、患者の免疫系をリセットするために、自家造血幹細胞移植(古くは自家骨髄移植と呼ばれた)を行うことにより難治性の自己免疫疾患が改善することや、B細胞を破壊するリツキシマブという薬を投与すると症状が改善するという報告があったが、今回の報告の成果は目覚ましいものである。

CD19-CAR-T細胞療法は、もともと、CD19という蛋白を出しているB細胞系の癌に対する治療法で、患者のT細胞を取り出し「CD19を出している細胞を全て破壊せよ」という命令をプログラミングして、その細胞(CAR-T細胞)を体に戻すと、CAR-T細胞がB細胞系の癌細胞を全て破壊してくれる、という未来の治療法である。難治性のB細胞系の癌に対して驚異的な効果を示している。日本でも多くの施設で行われいる治療法である。

正常な免疫系の細胞の中にもCD19を出している細胞を存在する。自己免疫疾患患者のCD19を出している細胞を全て破壊すると、症状が劇的に改善するようである。

人間の免疫系にはT細胞系・B細胞系・自然免疫系の3種類が備わっている。自己免疫疾患では、この3者のバランスが崩れて、自分自身を攻撃し始めると考えられているが、なぜバランスが崩れるのか不明である。また、この3種の免疫系細胞の、どれが「最初」なのかも不明である。今までの治療は免疫系の細胞の機能を抑えたり、炎症を抑えたりする薬剤が用いられて、良い効果を示して来たが、病気の「本体」は未だ不明のままである。

今回の報告は「B細胞系を強力に抑えると症状が改善する」という画期的なものであり、今後、多くの施設で同様の治療が行われ、治療成果に関して再現性があるかどうかの検証が行われるだろう。

Müller F et al. CD19 CAR T-Cell Therapy in Autoimmune Disease - A Case Series with Follow-up. N Engl J Med. 2024 Feb 22;390(8):687-700.

Isaacs JD. CAR T Cells - A New Horizon for Autoimmunity? N Engl J Med. 2024 Feb 22;390(8):758-759.

2024年03月15日